銀魂

□誕生日の夜に咲く花
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4月19日から4月20日に変わったその瞬間、クラッカーが鳴り、ハッピーバースディの歌を店にいた人全員が歌った。

4月20日は九兵衛さんの誕生日だ。
だから4月19日から20日までは九兵衛さんのバースディイベントをすることになっている。

この二日間、九兵衛さんの指名客だけで店は埋め尽くされるらしい。
そして売り上げもハンパないらしい。

らしいばっかなのは俺が高天原に入店して初めての九兵衛さんのバースディイベントだからだ。
だけど、本当に話に聞いていた通りで俺は心底驚いた。

19日の夜から営業が始まった店があっというまに込みだす。
これはいつものことだ。
時間制限がかかる。
これもいつものことだ。

だけど本当に客は九兵衛さん指名の人しかいなかった。
オーナーやbQの高杉さん以下が全員ヘルプになるなんて、すげぇことだと俺は思う。
そして客はみんな九兵衛さんにプレゼントを贈っている。

そして酒も食いもんもバンバン注文が入った。
シャンパンタワーをした客が二人もいたし。
うちの店では月に二回あればいいほうのシャンパンタワーが、一日に二回だ。
その分、九兵衛さんもいつもよりたくさん飲んでいた。

客が全員帰っていたのは三時に近くて、九兵衛さんはいつもはこの後ホスト達に味噌汁入れてくれたりするんだが、さすがにそういう気力はなさそうだった。
「飲みすぎた。
明日もシャンパンタワー出たらどうしよ…。」
九兵衛さんはソファにぐったりと身を沈めた。

「ほら、味噌汁。
お前が飲め。」
高杉さんが九兵衛さんに味噌汁を渡した。
「ありがとう、晋助。」
九兵衛さんはネクタイに手をかけるとネクタイを緩め、シャツの第一ボタンを外した。
いつもきっちりとスーツを着込んでる九兵衛さんがこんな風になるところを始めて見た。

「晋助、銀時、万斉、売り上げの集計手伝って下さい。」
控え室から出てきたオーナーが声をかけてきて、九兵衛さんに味噌汁を渡した高杉さんと、キッチンから出てきた坂田さんと河上さんが控え室に入っていく。

「毎度の事ながら、集計大変そうですねィ。
おい、ヘルプはサボってねーで掃除と片付けさっさとやれィ。
九ちゃん、味噌汁飲まねェんですかィ?」
沖田さんが九兵衛さんのとなりに座る。
九兵衛さんは味噌汁に手をつけていなかった。
「もう液体は口にしたくない。
あー、一週間分の酒を飲んだ気分だ。
もう寝たい。」

「あの、九兵衛さん、寝る前に店のヘルプホスト一同からのプレゼントです。」
その様子を伺っていた九兵衛さんのヘルプホストの中で一番年上のやつがそう声をかけて九兵衛さんに箱を渡した。
「いいの?
毎年ありがとう。」
九兵衛さんはその言葉に顔を上げる。
疲れがにじんでるけど、嬉しそうにしている。
「はい、いつもいつもありがとうございます。」
そう言って九兵衛さんに渡されたのは俺も金を出したけど、九兵衛さんが欲しがってたノートパソコンだ。

もしかしたらもう買っちゃったかもしれないが、前に九兵衛さんが新しいパソコンが欲しいと言うのを誰かが聞いてたらしく、それでパソコンに詳しいやつが選んだ。

九兵衛さんは箱を受け取るとそれをテーブルの上に置く。
「ちょっと待ってろ、今お礼を…」
そう言って立ち上がろうとした九兵衛さんがふらついて転びそうになったのを沖田さんがとっさに支えた。
「大丈夫ですかィ?
あんまり無理すんじゃねェ。
俺が持ってきてやりまさァ。
どこにあるんでィ?」
沖田さんは九兵衛さんをソファに座らせ、立ち上がる。
九兵衛さんは自分の誕生日に必ず店の従業員全員にプレゼントのお礼としてプレゼントを配るんだそうだ。
「僕のロッカーの中に紙袋があるからそれを持ってきて欲しいんだ。」
九兵衛さんの言葉に沖田さんが立ち上がって控え室に入っていく。

その途端、bT以下のナンバークラスが九兵衛さんに
「誕生日おめでとうございます!」
と言いながら、個人的に九兵衛さんにプレゼントを渡し始めた。
「ありがとう。
悪いな。
ありがとう。」
九兵衛さんはそう言いながらプレゼントを受け取る。

暗黙の了解とでもいうのだろうか、この店では九兵衛さんに個人的にプレゼントを渡せるのは10までらしい。

他のやつらは一同からとしてプレゼントを渡すことになっている。
クリスマスの時もそうだった。

近藤さんも、しっかりと九兵衛さんにプレゼントを渡していた。
それをいいなぁと思うと同時に、俺は個人的に渡せるもんな、とも思う。

22日の日曜日に俺は九兵衛さんと会う約束をしている。
その時に、指輪を渡すつもりだ。
さすがに左手の薬指のサイズに合わせたものじゃなくて、右手の薬指のサイズに合わせたものだけど。
まだまだ恋人とはいえない俺たちの関係、そして邪魔者…じゃねーや、ライバルとの関係も相変わらずな彼女だけど、そろそろ進展したい、そういう気持ちを込めている。

ありがとう、笑顔でプレゼントを受け取る九兵衛さんをこっそりと見ながら俺はそんなことを考えていた。
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