銀魂

□幸せのカタチ
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人目を忍んでの逢瀬。

空とぶ屋形船の個室で高杉と向き合っていた九兵衛は、高杉が猪口の中の酒を飲みほしたのを見て徳利を手にする。
黙って猪口を差し出した高杉に酌をすると、九兵衛は高杉が再び猪口を口にするのを見ながら口を開く。

「今日、真選組の局長と副長が柳生家に来た。
近々、鬼兵隊がなにか大きなクーデターを起こすかもしれない。
もし人手が足りない時は柳生家にも協力をして欲しい、そんな話だった。
晋助、一体なにをたくらんでいるんだ?」

酒を飲みほした高杉はかすかに笑った。
「お前には関係のないことだ。」

「関係ある。
僕はお前を愛してる。
お前は攘夷浪士のカリスマで、僕は幕府に仕える柳生家の次期当主。
僕はもし幕府に何かあったら、幕府のために攘夷浪士と戦わなければいけない。
だけど、本音を言えば晋助と戦いたくないんだ。
だって僕は晋助を愛してるから。」

九兵衛の言葉に高杉はにやりと笑った。
「ふん、名門柳生家の次期当主様が攘夷浪士を愛してるか。
とんでもねぇおひいさんだな。」

「お前はいつもそうだ!
僕をこうして呼び出すのはお前なのに、お前は僕をからかってばかりだ!
僕はお前を愛してるって言ってるのに、お前はそうやってただ笑うだけ。
なのに、定期的に僕を呼び出す。
だけどお前は僕をどう思っているのか、教えてくれない。
僕はこんなにお前を愛しているのに!」
九兵衛はそう叫びながらボロボロ涙をこぼしていた。

初めてこの男に会った時は九兵衛はこの男が攘夷浪士の高杉晋助だなんて知らなくて、それを知った時にはもう深くこの男を愛していた。

だけどこの男が自分をどう思っているか分からない。

高杉は定期的に自分を呼び出して、人目のないところで何度もこうして逢瀬を重ねているけど、口づけすら交わしたことはないのだ。
いつも九兵衛は高杉に好きだと伝えるのに、高杉は余裕たっぷりに微笑むだけで、九兵衛に何も言ってくれない。

だけどまた自分を呼び出す。
だから、もしかして高杉も自分を好いてくれてるんじゃないか、そう思うけど高杉は九兵衛をどう思っているかを聞いても笑ってるだけだ。

それでも九兵衛は高杉を好きで。
こんな風に誰かを想い、どうにもならない想いに胸を焦がすなんて九兵衛には初めての経験で、だからどうしていいか分からない。

高杉はしばらくはボロボロと泣いている九兵衛を見ていたが、スッと立ち上がると黙って九兵衛のそばに来て、九兵衛を抱きしめた。

「おめえは名門・柳生家の次期当主。
俺ァ過激派攘夷浪士の高杉晋助。
俺がおめえに好きだなんて言っても、おめえの負担になるだけだろうが。
なのにてめえは本当にとんでもないおひいさんだな。
会うたび、会うたび俺に好きだと言いやがる。
だから突き放せねェままじゃねぇか。
…好きだ、九兵衛。
何度も何度も突き放そうとしたのに、できねェくらいお前が好きだ。
憎しみしか抱えてこなかった俺に、憎しみ以外の感情を教えてくれたのは九兵衛、てめえだ。」

高杉の言葉が耳に優しく響く。
九兵衛は高杉にすがり付いて、何度もありがとうと呟いていた。
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