銀魂

□土方家の日常
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「ただいま。」
土方は玄関に入ってそう声をかけるけど、いつもなら
「父上!
お帰りなさいっ!!」
と元気に飛び出してくる双子の息子と娘、航と翔子が出てこない。
その後ろから
「お疲れ様。」
と笑顔で迎えてくれる妻の九兵衛も出てこない。

訝しく思っていると、
「お帰りなさい。」
居間から翔子だけが出てきた。
今年6才になる娘は、どこか不満げな顔をしている。
「なんだいたのか。
どうした、そんなふてくされた顔して。」
土方は靴をぬぐ部屋に入り、娘を抱き上げる。

まだ18才だった九兵衛と付き合い始めた時は周りから随分とからかわれたものだった。

九兵衛が19才の時に婚約をした時は総悟は
「てめえロリコンだったんだなァ。」
と言っていたが、そんなの気にせずに九兵衛が20才になったら籍を入れようと思ってたら婚約期間に妊娠が分かったので、時期を早めて入籍した。

そして柳生家ではなく、自分と九兵衛と子供と暮らす家を土方は構えて、生まれてきた子と四人で暮らしている。

生まれてきたのは男女の双子だった。
双子を九兵衛一人で育てるのは大変だから、土方もできる協力は何でもした。
非番の日は子供を背負って、一人は抱いて散歩したり、警邏の最中にちょこっと家に寄って家事を手伝ったり。
そんな土方を見た隊士たちが
「あの副長が…鬼の副長があそこまで変わるなんて、九兵衛さんすげー。
子供ってすげー。」
などとこそこそ囁きあったものだった。

そしてそんな土方の努力のせいか、子供たちは二人とも父である土方が大好きだ。
なのに今日の翔子は不満げだ。

子供が双子だったので、土方は海を渡って空を翔ぶように力を合わせてどんな困難を乗り越えていけるようにと願いを託して『航』と『翔子』と名づけた。
そのせいか、二人は仲がいい。

それなのに今、翔子は一人で不満顔で土方の胸に顔を押し付けている。
「どうしたんだ、母上と航は?」
「翔子が先に母上に耳掃除してってお願いしたのに、航が割り込んできたの!
それで、母上がじゃんけんで決めなさいって言って、じゃんけんに翔子が負けちゃって、航が先に耳掃除を母上にしてもらってるの。
ずるいよ、航。
母上に膝枕してもらってるんだよ!」

娘の訴えに土方は噴出しそうになるのをこらえていた。
なんて可愛い理由で怒っているんだろう、そう思ったけどそう言うと
「父上なんか嫌い!」
と言われそうだったので我慢する。

「じゃんけんに負けたんじゃ仕方ねーな。
まぁいつまでも航の耳掃除してるってわけじゃねぇんだから、おとなしく父上と待ってような。」
土方はそう言って翔子を抱き上げたまま、居間に入っていく。

「お帰りなさい。」
そう言ってくれた愛妻は膝の上に息子を乗せて耳を掃除していた。
「父上お帰りなさい。」
息子はそう言ってはくれたものの、九兵衛の膝の上で気持ちよさそうに目を閉じている。

俺が九兵衛に膝枕なんかしてもらったの、いつだったっけ?
余りに気持ち良さそうな息子の顔を見ていると、そんなことを思ってしまう。

「はい、終わり。
翔子と交代。」
その時、九兵衛が声をかけて航の頭を撫でた。
「え〜、もっと膝枕してよ、母上ぇ。」
「航ずるい!!
次は翔子の番だよ!!」
翔子が抗議をする。

「まったく…」
九兵衛が苦笑した時、居間の空気が凍った。
「いや、わりぃけど次は父上の番だな。
父上、仕事で疲れてるから母上に癒してもらわねぇと。」
と土方が言い放ったからだ。

「「「え?」」」
「いやだから、俺も仕事で疲れてんの。
今日も総悟が警邏さぼりやがるしよー、山崎の報告書は作文だしよー、近藤さんは相変わらずストーカーだしよー。
父上が一番疲れてるから次は父上の番な。」

「ずるい!!
父上ずるい!!」
叫ぶ娘に土方は言う。
「あのな、母上は父上の奥さんなんだよ。
母上が世界で一番愛してるのは父上で、父上も母上を世界で一番愛してんの。
だから次は父上の番。」
「大人気ないよ!!」
翔子の言葉に土方は言い返す。
「お前、難しい言葉知ってんなー。
でもお前たちはいずれ好きなやつを見つけてそいつと一緒に生きてくんだよ。
父上は母上と出会って、もう母上と一生生きていくことに決めたから、まぁ仕方ないだろ。」

「違う!!
母上は大きくなった僕と結婚するんだ!」
立ち上がって叫ぶ息子に
「バカだなー、お前。
もう母上は父上と結婚してるから他の人と結婚できないの。」
土方は得意顔だ。

「じゃ、父上が母上とリコンすればいい。」
「てめっ、どこでそんな言葉覚えやがった?!
俺は九兵衛と離婚なんかしねーよ!」

「もうそこまでにしろ。
耳かきは次は翔子の番。
父上は着替えを先にして来い、着物は出してあるから。
そうしたら、次は父上の番。
はい、翔子おいで。
父上は着替えに行ってきて、航はそこでおとなしく待ってなさい。」
九兵衛の言葉に全員が渋々返事をして、言われた通りにしようとする。

「それから、母上が世界で一番愛してるのは父上だ。
だけど、何かあった時に母上が真っ先に守るのは父上じゃなくて航と翔子だ。
父上もそれは同じだよ。
航と翔子は父上と母上にとって、大事な存在なんだよ。」

九兵衛の言葉に航と翔子がにっこり笑う。
「「どうもありがとう、父上、母上!」」

「「いいえ、どういたしまして。」」
土方と九兵衛も笑みを浮かべて子供たちを見た。

ふいに、幸せだなぁという気持ちが土方の胸にこみ上げてくる。
鬼の副長なんて言われているけど、そんな自分にこんな普通の、だけどあたたかくて優しい家庭を築けたのは九兵衛と結婚したからだ。
家に帰ってくると愛してる嫁がいて、可愛い子供たちがいて、そうしてこうやって家族で笑い合える。
大事な存在を得ることができたこと。
それがどれだけ幸せなことか。

土方は、着替えの用意してある夫婦の寝室に向かいながら、自然とこぼれる笑みを抑え切れなかった。

END

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