銀魂

□ENDLESS CHAIN Ver.銀魂
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少しでも妙ちゃんの役に立ちたくてすまいるでバイトを始めてから、僕は初めて男の人を好きになった。

毎日の様にすまいるに来て妙ちゃんの指名をしてる近藤くんを、同じように毎日迎えに来る真選組副長の土方くん。
彼が僕の恋した相手だ。

土方くんはすまいるのキャバ嬢たちからすごくもてる。
土方くんが現れると
「指名料なんていらないからこっちのテーブルに来てぇ。」
とか、
「むしろ料金全て払うから私のテーブルに付いてぇ。」
とかキャバ嬢たちは甘い声で言う。

だけどそんなキャバ嬢たちを無視して土方くんは近藤くんを連れて帰る。
そんな硬派な所をいいなと僕は思った。
そしてそんな土方くんが僕にだけは
「お前、こんなところであんまり遅くまで働いてるなよ。」
「早く家に帰れよ。」
「なんだったら送ってやろうか?」
と言ってくれた。

昼間、町で会った時も土方くんは僕に色々話しかけてきてくれた。
僕はうぬぼれていた。
もしかしたら、彼も僕に好意を持っていてくれているんじゃないかと。

「トシはな、想っていた女の人がいたんだよ。
大切で仕方なくて、自分じゃない誰かと普通の家庭を築いて普通に幸せになってもらうことを心から望んで、だからこそ逆に突き放した、それくらい大事な女の人が。
その人が病気で亡くなったんだ。
だから、トシに好みのタイプなんていないだろうな。
亡くなった人との思い出ってのは美化されちゃうからな。」

だからすまいるで他のキャバ嬢たちに頼まれた妙ちゃんが、近藤くんに土方くんの好みの女性のタイプを聞いたら近藤くんがそう答えた時、僕は頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を受けた。

僕のパパ上は母上を亡くしたけど、母上を愛しすぎて再婚を拒んだ。
その為に僕を男として育てた。
パパ上は18年間ずっと、この世界にいない母上を愛し続けた。
死んだ人には敵わないんだ、僕はパパ上を見ていてその事を知っている。
パパ上は目の前で生きている僕の、性別を偽って育てられる苦しみより、母上以外の人と結婚したくないという母上への気持ちを優先したんだ。
僕はずっとそう思って生きてきたから、近藤くんから土方くんの話を聞いて、自分のうぬぼれに呆れてしまった。

それから僕はすまいるのバイトを止めた。
僕は妙ちゃんには何も言わなかったけど、妙ちゃんは僕の気持ちにはなんとなく気が付いていたみたいで、
「辛くなったらいつでも話してね。
私はいつでも、世界中の誰よりも九ちゃんの味方よ。」
と言ってくれて、それはすごく嬉しかった。

だけど、うぬぼれていただけに、それから町で土方くんに会っても、
「急いでいるから。」
と言って彼とは話もしなくなった。
恥ずかしかった、彼のそんな過去もしらず、ただ僕に話しかけてくれるだけで彼に好意を持ってもらえてると思っていた自分が。
彼は僕を女だと知って剣が鈍ったくらいのフェミニストだ。
僕の生い立ちを知って同情しただけに違いない。
だから話しかけてくれたんだろう。
それなのに全てを分かった上で、それでも彼を好きな自分が惨めだった。

そのせいか、夜になると気が滅入る日々が続いていた。
昼は忙しいからそんな事を考える暇は無いのだけど、夜、寝る前になるとつい色々考えてしまう。
だから最近の僕は家をこっそり抜け出して、夜の散歩をする。

今日も僕は男物の着流し姿に刀を腰にさして髪も結ばすに柳生家を抜け出して散歩をしていた。
二時間ほどふらふらしてから、家に戻る途中だった。

「家出娘はおまわりさんが補導しなきゃなんねーな。」
突然、後ろから声を掛けられて、僕は飛び上がるほど驚いた。

振り返らなくても誰か分かる。
僕が土方くんの声を聞き間違えるわけ無い。
だって、僕はすごく彼を好きなんだから。
だけど彼は亡くしてしまった大事な人を想っている。
その事を思い出して僕は考えるより先に走り出していた。

「おい!
待てッ!!」
後ろから土方くんの声が聞こえたけど、僕は構わず走り続ける。

僕の足は速い。
神速なのは剣だけじゃない。
そして土方くんの足はそれなりに速いけど僕には及ばない。
だけど足の長さが違いすぎる。
しばらくして僕は土方くんに追いつかれた。
腕を強く掴まれ、
「逃げんなッ!!」
と叫ばれて僕は足を止めた。
でも振り返ることはできなかった。

「なんでずっと俺を避けてんだよ?!」
そんな僕に土方くんはそう問いかける。
酷い質問だ。
僕は君を好きで、だけど君には亡くしてしまった大事な人がいて、だから僕は君を諦めなくちゃいけなくて、だけど僕は君を諦め切れなくて、まだ好きで、こんなに大好きで、だから苦しくて、君を避けるしかできないのに。
それなのにそんな質問をするなんて、彼は酷い男だ。
だけど、それでも好きで好きで仕方ない。
土方くんが好きで好きで仕方ない。
僕の頬を溢れた涙が伝っていく。

土方くんは僕の涙に気がついたみたいで、僕の背後で彼が息を呑むのが気配で分かった。

「泣くんじゃねぇよ。」
土方くんの言葉に僕は唇を噛み締めた。
好きな人ならともかく、好きでもなんでもない人が目の前で泣いてるなんて、彼にとってはめんどくさいだけだろう。
「泣いてなんかない。
だから離せ。」
声は少し震えてたかもしれないけど、僕はそう言った。
「離さねぇ。
好きな女が目の前で泣いてるのに離してやれるわけがねぇだろうが。」

頭が彼の言葉を理解する前に僕は彼に抱きしめられてた。

「俺はお前が好きだ。
だからいきなり避けられて結構ショックだったんだ。
避けられるような心当たりねぇし。
だけど、それでもお前が好きだ。
どんなに避けられても、それでも俺はお前が好きだから、お前が泣いてたら放っておけない。」

「だって近藤くんが君には想っていた人がいて、その人を亡くしてしまったって言ってたから…。
死んだ人との思い出には生きてる人間は勝てないだろう?
僕のパパ上は母上を愛しすぎて、再婚を拒んできた。
その為に僕は男として育てられた。」

僕の言葉に土方くんはため息をつく。

「あのなぁ、おめーのパパ上の事はわかんねぇけどよ。
死んだ人間の事を忘れられないっていうのは当たり前の事だろ?
それが大事な人だったらなおさらだ。
だけど、それでもその痛みを抱えて生きてる人間は先に進まなきゃなんねぇ。
俺の道はこれからも果てしなく続いていくんだ。
その道を、俺はお前と共に歩いていきたいと思ってる。
好きだ、お前が。
女が男としてそだてられる、そんな苦しみに耐えて強くなったお前も、だけど本当は綺麗な着物やあやとりやままごとをしてみたかったと泣いてたお前も、そして俺を避けてるお前も。
全て、好きだ。
だからこれからはずっとそばにいてお前の涙は拭いてやりたい。
今度は大事なものを見失わないように、ずっとそばにいて抱きしめて、俺の手で幸せにしてやりたい。」

僕はその言葉に、土方くんに抱きついて泣いていた。

「僕も好きだ、君が好きだ、大好きだ。」

土方くんの僕を抱きしめる力が強くなる。

彼の道も僕の道も、ずっと続いていく。
だけど、これからは別々の道じゃなく、二人で一緒に歩いていけるんだ。

僕は泣きながら、僕を強く抱きしめてくれる土方くんの腕の中にいた。
幸せだって思いながら。

END

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