銀魂

□花魁道中・番外編
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総悟は真選組の定時終業時刻の一時間後に屯所に戻ってきた。

池田屋の柳に会いに行った後、そのまま楼主の辰五郎とお登勢に柳の身請けを申し込んできた。
辰五郎とお登勢は総悟の申し出に目を丸くして驚いていた。

「いくら真選組の隊長とはいえ、柳の身請けの額は半端じゃないよ。
20歳にもならない男がほいそれと身請けできるもんじゃない。
それにあの子は身請け金を用意出来次第、鬼兵屋の高杉の旦那が身請けすることが決まっていて、本人もそれを了承してるよ。」
お登勢の言葉に総悟は笑う。

「知ってまさァ。
でもそっちのいう身請け金を高杉より先に俺が用意できたら、俺が身請けできるんじゃねェですかィ?」
「柳の身請け金は千両箱が45箱だよ。
こういっちゃなんだが、 18の沖田の旦那に用意できる額なのかね?」
お登勢の言葉に自分を取り戻した辰五郎はやや呆れたように聞いた。
沖田総悟は真選組の一番隊・隊長で、副長の土方の部下だ。
土方と、柳こと九兵衛との関係は知ってるだろうに、平然とその九兵衛を身請けしたいといえるその神経に辰五郎は呆れていたのだが、総悟があっさりと
「武州の実家を売るつもりなんでねィ。
それにそれなりの貯金もありますしねィ。」
と言ったので
「…今までの池田屋の歴史の中で、身請けがかち合った遊女なんていなかったんでね。
高杉の旦那にも他に身請けを申し込んできた旦那がいることを話さなきゃならないし、今の時点ではなんとも言えないね。
また、こちらから連絡するんで。」
と総悟に今日のところは帰るように言った。


それで総悟は池田屋を後にして、そのまま武州の実家を売るために不動産屋に行った。
何件かの不動産屋を回って査定の日程なんかを話し合っていたら、時間がかかってしまったのだ。

腹減った、ついでに飯を外で食ってくりゃよかったなんて思いながら屯所に入っていくと、玄関で隊服姿の土方と会った。
土方は手に呉服屋の袋を持っていた。

「なんだ総悟、今日は非番じゃなかったか?
そんな格好でどこに行ってた?」
出かけようとしてた土方は外から戻ってきた総悟をみてそう声をかけた。

「土方さんこそ、そんな格好でどこにいくんですかィ?」
総悟は革靴を脱いで自分の下駄箱に入れると土方に聞く。
「池田屋に行ってくるんだ。」
土方の言葉に総悟は片眉を上げた。
「呉服屋の袋なんか持って?
そりゃ遊女へのプレゼントかなんかですかィ?」
「これは足袋だ。」
土方の言葉に総悟は顔を顰めた。

遊女は足袋をはかない。
それが粋だとされているから、最高位の遊女である花魁ももちろん足袋ははかない。
遊女が足袋をはくのは遊郭を出て行く時なのだ。
そんな遊女に…というよりは、土方が池田屋に行くのなら会いに行くのは九兵衛だろうから、九兵衛に足袋を渡すと言う事は、それ相応の覚悟…身請けの話をするつもりなんじゃかいかと思ったのだ。

「九兵衛さんの身請け金は千両箱が45箱でさァ。
すげェ額ですねィ。
だから俺ァ武州の実家、売ることにしやした。」
総悟の言葉に今度は土方が眉間に皺を寄せた。

「そりゃ一体どういう意味だ?!」
どういう意味だと聞きつつも、その意味は誰より分かっているのだろう、土方の顔は攘夷浪士の大群を相手にする時よりもさらに凶悪な顔だ。

「聞かなくても意味は分かってんだろィ?
身請け申し込んできたってことでさァ。
鬼兵屋の高杉晋助も九兵衛さんの身請け申し込んでるそうで、池田屋の歴史の中でも遊女の身請けがかち合うなんてこたァなかったんで、楼主も戸惑ってるようでしたがねィ。
ようは金を用意できた男が九兵衛さんを身請けできるってことで、分かりやすくていいじゃねェですか。」

へらっと笑った総悟の胸倉を土方は掴んでいた。
「てめえが九兵衛の身請けを申し込んだだと?!
てめえが俺を気にくわねェで嫌がらせしたいのは分かるが、さすがにやりすぎだろうが!!」
総悟は土方の手を振り払う。
「はん、てめえを気にくわねェのも、嫌がらせしてやりてェのも事実ですがねィ、九兵衛さんの事は俺ァ本気でさァ。
あっちも多分、初めて俺とあった時は、どうせあんたが俺の事を問題児だとかなんとか言ってるのを聞いてあんまりあんたを困らせるなって言うために俺と床入れしたんだと思いやすがねィ。
九兵衛さんは随分と情の深い女でさァ。
家に帰った時に、あんな女がお帰りって迎えてくれたらと思ったんで、身請けを申し込んできやした。」

総悟の言葉にカッとして土方はもう一度総悟の胸倉を掴んだ。
「てめえ俺がどんな想いであいつをずっと探してて、やっと見つけたか知ってて言ってんのか?!
俺が他の男に抱かれてるあいつを、それでもどんな想いで愛してるか知ってんのか?!」
「知るかよ。
てめえの想いなんざ知るかってんだ。
俺ァ自分の想いが一番大事なんでねィ。
あの女を欲しいと思ったからモノにすることにした、それだけでさァ。
それをてめえにウダウダウダウダ言われる筋合いはねェや。
離しやがれ。」
「ふざけんな!!
俺はずっとずっとあいつを…!」
「だから何だって言うんでィ!」
玄関でもめている二人に気が付いて、他の隊士たちが集まってくる。

「そこまでだ二人とも!
いい加減にしろ、副長と一番隊隊長が屯所の玄関で堂々ともめるなんてみっともない!」
騒ぎを聞きつけて駆けつけた局長の近藤に引き離された二人はそれでも睨み合っていた。


近藤は昼間、警邏に出た土方が通りかかった呉服前の前で
「ちょっとここに寄っていいか?」
と呉服屋に寄ったのを知っている。

その時、自分も土方と一緒に警邏をしていたからだ。
「呉服屋?
何を買うんだ?」
と聞いた近藤に土方は
「足袋だ。
遊女は身請けや年季明けで遊郭を出る時に始めて足袋をはくことができるんだ。
だからあいつに買ってやるんだ。」
と答えてくれた。

その顔に悲壮な決意がにじみ出てる気がして、近藤は思わず
「彼女を身請けしてやることが出来るといいな。
金が足りなかったら、俺の貯金全額貸してやるからな。」
と言っていた。
それがよりによって、部下の総悟が先に身請けを申し込んだらしい。

「二人とも俺の部屋に来い!」

近藤は二人を自室に引きずって行きながら、幼馴染で相思相愛だった土方はともかく、一代で鬼兵屋を押しも押されぬ大店にした高杉晋助や、ドSの総悟にここまでさせる柳生九兵衛…柳という花魁はどんな女性なんだろうと思わずにはいられなかった。

END
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