銀魂

□最後の家出
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総悟は足音荒く屯所の廊下を歩いていた。
昨日からイライラがおさまらない。

『総悟くんのバカ、分からず屋!
もういい、実家に帰らせていただきますっ!!』
九兵衛の言葉を思い出して、ついむかついて屯所の廊下の壁を蹴ってしまった。

『バカの分からず屋はどっちでィ!
もう勝手にしろィ!』
総悟は九兵衛にそう言い放ってからずっと自分の部屋に篭ってた。
そのうち九兵衛の方から謝ってくるだろうと思ってたのだ。
だって今までもケンカは何回かしたけど、最終的には九兵衛の方から総悟に謝ってきたから。
だけど、それからしばらくしていやに家の中が静かなことに気が付いて、自室をでてリビングをみても誰もいなくて、慌てて家中を歩き回ったら九兵衛と総司の姿はどこにもなかった。
空っぽのベビーベッドの前で総悟はただ呆然としていた。

迎えに行こうかとも思ったが、勝手にしろと言ってしまった手前、すぐに迎えに行ったのでは格好がつかないと変なプライドが邪魔してそのまま放っておいた。


「随分荒れてるじゃねぇか。」
もう一度屯所の廊下の壁を蹴った時、一番むかつく男の声がして総悟は甘いマスクには似合わない凶悪な表情を作って振り返った。

「うるせーな。
てめーマヨネーズくせーから俺に近寄んな。
マヨくささが移って家に帰ったら総司が泣いちまいまさァ。」
「あ?
その息子つれて嫁に家出されたからお前は荒れてんだろーが。」
小ばかにしたように半笑いで土方に言われ、総悟の頭にカッと血が上る。

その総悟の目の前に土方が風呂敷包みを突き出した。
「なんでィ、これ。」
「柳生四天王のうすらでかいのが持ってきた。
お前の嫁が柳生家で弁当を作ってたらしいぞ。
作ったものの結局は持って来るのを止めたようだが、それを見ていたあのでかいのがもったいないからとこっそり届けにきたらしい。」
土方の言葉に総悟は驚いていた。
四天王のでかいのと言ったら西野だ。
確かにあの四人の中では一番そういう気を使ってくれそうなやつではあるが、あの男は自分のことは嫌いだと思っていた。

「まぁ、早いとこ別れるか仲直りするか選ぶんだな。
でかいのはともかく、他の四天王は嫁が実家に帰ってきてくれて大喜びだそうだ。
大事な若が戻ってきてくれたってな。
爺と親父の方は孫が来たって大喜びらしいしな。
ったく、嫁とケンカして家出されたからって屯所で隊士に向かって抜刀するようなガキがガキ育ててるなんて。
世も末だな。」
「誰がガキなんでィ!」
土方の言葉にカッとなって総悟は大事な風呂敷包みはきちんと置くと鯉口を切った。

「平時の屯所内での抜刀は局中法度で禁じてる。
にも関わらず、そんなに簡単にそれを破ることがもうすでにガキのすることだ。
次にやったら切腹を命じるからな。」
しかし、そんな総悟を土方は軽く交わす。

そしてふっと笑みを浮かべた。
「まぁ柳生家は名家だ。
×1で出戻りのコブつきの娘でも嫁に欲しいって野郎はごまんといるだろうよ。」
土方は嫌みったらしくそれだけ言うときびすを返した。

それは自分に対する普段の総悟の態度への仕返しが存分に含まれていたのだが、総悟にとっては頭を殴られたような衝撃だった。
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