銀魂

□お願い、つき放さないで
1ページ/7ページ

「ただいま。」
玄関のドアが開く音と土方の声に九兵衛は驚いて慌てて玄関に行く。
「おかえりなさい…どうしたの?
まだ、三時半だけど?」
「うん、何かね、今日は皇帝が用事があるとかで夜勤の隊士以外は帰っていいっていわれたんだ。
だから早く帰って来れたんだよ。
君がお店に出勤するまでゆっくりできるね。」
穏やかに微笑む土方に九兵衛は
(なんて余計なことを!
あのバカイザー!)
と思いながら、土方に黙っていた今日の松平との同伴をなんて説明しようか、と心の中で考えていた。


すまいる1キャバ嬢の九兵衛だが、基本的に同伴はしない。

初めて同伴してくれるお客さん(ちなみにそれは真選組皇帝の沖田総悟だった)が決まった時、それを告げたら土方の機嫌が悪くなった。
仏のトシさんにしては珍しいことだった。
だからそれからは同伴は断るようにしていた。

けれど、さすがに松平公の同伴依頼は断れない。
阿音がすまいるを辞めたあと松平の指名キャバ嬢は九兵衛になった。
松平片栗虎は警察庁のトップだ。

そして仏のトシさんは仕事の後、家に戻ってくるのは大体七時過ぎだ。
九兵衛は六時半には店に出勤するために家を出ているのが普通だ。
同伴の場合はそれよりさらに早く家をでるけど、帰ってきた時には家に九兵衛がいないのが当たり前の土方に同伴の事がばれることはないとふんで九兵衛は松平の同伴のみは受け入れていた。

それなのにこんな日に限って、こんなに早く帰ってくるなんて…。
今日の同伴は五時半に待ち合わせだから五時には家を出ないといけない。
だけど、いつもと違って土方はその時間は家にいる。
どうしよう、そう思いつつ九兵衛は自分を優しく抱きしめてくれる仏のトシさんの背中に腕を回した。


「同伴?
ふーん、大変だねー。
そうなんだー、同伴相手は松平のとっつあんなんだー。」
着流しに着替えた土方はキッチンで夕食の支度している九兵衛にそう言った。

仕方ないから九兵衛は素直に今日は同伴だから五時に家を出るねと伝えたのだ。

「それで、同伴はあれ以降、今日が二回目なの?
それとも僕に内緒で今までも同伴してたの?」
声は穏やかだけど、きっと機嫌は悪いんだろう、九兵衛はそう思った。
けど正直にそうだと言う必要はないだろう。

「同伴って結構面倒くさいから。」
質問には答えず、そう言うだけにしておく。
「面倒くさいの?」
「うん、面倒くさいよ。
だって、いつもより早く出なくちゃいけないから用意もそれだけ早くしなくちゃいけないし。
それに昔、妙ちゃんが言ってたけどご飯食べに連れて行ってもらうのだって、相手の負担にならないけど相手のプライドも傷つけないような食事を選ぶのって、大変なんだって。」
「そうか、同伴って大変なんだねー。」
「みたいだね。
ご飯の支度、終わったけどどうする?
今食べちゃう?
それともお腹すいてからたべる?」

聞きながら振り返った九兵衛は自分のすぐ後ろに土方が立っていたので驚く。
「どうし…」
言いかけた唇をいきなりふさがれ、九兵衛は目を見開く。
いきなりだったので驚いたのだ。
それなのに土方はそんな事気にしないかのようにそのまま九兵衛を抱き上げた。

「ちょ…なに…」
「家を出るのは、五時でしょ?
だからまだ時間あるでしょ?」

土方の口元は仏のトシさんのままだけど、目元の鋭さは『鬼の副長』と呼ばれていた時のものだった。

「時間はあるけど…」
「ならいいでしょ?」
「いいでしょってまだ僕お化粧もしてな…」
言いかけた唇をもう一度ふさがれて、九兵衛は今度は素直にそれを受け入れた。

彼は断ると不機嫌になるか、落ち込むかのどちらかだ。
そして、どっちにしてもそうなってしまったら手がかかる。
だからそれ以上は何も言わなかった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ