銀魂

□魂が忘れない
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何でこんなに大事な人のことを忘れていたんだろう?

金時の事を恋人だと思い込んいたことを思い出しただけで、自分自身への怒りで体が震える。
銀時の事が何より大事だった。

お妙を取り戻すために新八を始め、万事屋のメンバーや真選組が乗り込んで来たあの出来事が結果的に九兵衛をがんじがらめにしていたものすべてから解き放ってくれた。
祖父と父の期待にこたえなければいけない。
柳生家を継ぐために強くならなければいけない。
男にならなければいけない。
ままごともあやとりもしてはいけない。
綺麗な着物を着ることもできない。
強くて優しい女の子になることを諦めなければいけない。

自分が女なのか男なのか分からない、そんな苦しさから解き放ってくれたのはあの出来事だ。
そうして、自分がただの女なんだと教えてくれたのは、合コンの時に空飛ぶ屋形船から放り出されるのを承知の上で自分の手を掴んでくれた銀時の
『ただの、女の、綺麗な手だ。』
という一言だった。
あれから銀時のことを意識するようになって。
銀時も同じ気持ちだと知って、抱きしめられた時はこれ以上ないくらい幸せで、
「もうこれより大きな幸せが訪れることはないだろうから、このまま死んでしまいたい。」
と言ってしまった。
そしたら銀時はさらに九兵衛を抱きしめて
「バカ言ってんじゃねぇや。
これから先は、今よりもっともっと俺が九兵衛を幸せにしてやる。
だから生きて今より幸せになろうぜ。」
と言ってくれて、九兵衛は大粒の涙をこぼした。

その言葉通りだった。
あの時よりもさらに銀時は自分を幸せにしてくれた。
銀時と一緒にいるとドキドキして、あれですごくモテる銀時だから不安になったり、やきもちをやいて銀時に八つ当たりしてしまったりしたこともあったけど
「もう、そんなやきもちやいちゃう九ちゃんも可愛くて大好きだよ♪」
「九ちゃんは世界一可愛いよ♪」
「俺が愛してるのは九ちゃんだけだよ♪」
なんていってキスをしてくれるから、なんだか不安になったりやきもちやくのがバカらしくなり、最後には九兵衛も笑顔になって
「僕も銀時が大好きだ。
世界で一番銀時を愛してる。」
なんて答えてた。
なのに、そんな大事な銀時の存在を忘れて、自分は金時を自分の恋人だと思っていた。

金時と手を繋いだ時になんだか分からないけど妙な違和感を感じて、それ以上の事はしなかったけど、だから銀時の事を裏切ってないなんてことはない。
自分を救ってくれたのは銀時だった。
幸せにしてくれたのも銀時だった。
なのにその銀時の存在を忘れただけで、すでに自分は、銀時をこれ以上ないくらい、裏切っているのだ。

すべてを思い出した今、もう銀時の顔を見ることが出来ない。

全員で銀時をお帰りと迎えたあとすぐ、色んな人に囲まれて楽しそうにしてる銀時の姿を確認してから、九兵衛は誰にも分からないようにこっそりとその場を離れた。
だってもう銀時の顔を見ることが出来ない。
銀時にあわせる顔なんてない。

一人で柳生家に帰りながら、九兵衛は唇を噛み締めて必死に涙をこらえていた。
自分に忘れられた銀時の心の痛みを思ったら、自分が泣くなんてそんなの出来るわけない。
だって、銀時の方がよほど辛くて泣きたかったはずだ。
なのに泣くどころか不敵な笑みを浮かべて自分たちを助けてくれた。
銀時のことを忘れ、金時に協力していた自分たちを助けてくれたのだ。
銀時の事を忘れた自分たちを責めるでもなく、辛そうな顔をするわけでもなく、ただただ今までと同じに助けてくれた。
そんな銀時の恋人に自分はふさわしくない。
銀時のことを忘れてしまうような、そんな恋人は銀時にふさわしくない。

柳生家に帰ったらすぐに用意して修行の旅に出よう、九兵衛はそう決めていた。
そして銀時の事を諦めきれるまで、何年でも旅を続けよう。
銀時はモテるから自分がいなくなってもすぐに立ち直ることが出来るはずだ。

そうと決めたら決心が鈍らないうちにさっさと用意をするに限る。
九兵衛はほとんど小走りになって柳生家に向かっていた。
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