銀魂

□盛々様との逢瀬にて
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攘夷浪士が幕府をぶっ潰したい理由が今なら分かる。

土方は誰かに聞かれたら自分もテロリストと言われても仕方ないようなことを思いながら苦々しい気持ちで劇場の個室型ボックス席に座る盛々様と九兵衛を見ていた。

盛々様が九兵衛を『柳生のお兄ちゃん』ではなく『柳生のお姉ちゃん』だと知ってプロポーズをしてから一週間。
盛々様は相変わらず九兵衛との『お出かけ』を御所望されている。
しかし、以前と違って、その内容は今日のように劇場に観劇にきたり、レストランで一緒に食事をしたりなど、恋人の自分でさえ中々できない『逢瀬』になってきてる。
そして、なにが腹たつって、盛々様が九兵衛に女物の着物を贈って
「柳生のお姉ちゃん、これ着て劇場に観劇にいこう。」
とか
「これを着た柳生のお姉ちゃんと一緒に、レストランにご飯食べに行きたい。」
などと言うことだ。

盛々様は子供とはいえ、将軍の甥っ子。
将軍の住む城ではないが別の場所に構えてある城に住んでいるし、権力も財もある。
財があるから九兵衛にプレゼントする着物は見るからに高級品だし、レストランだって土方の給料じゃ連れて行ってやれないようなところだし、劇場はセレブしか入れない個室型ボックス席だ。
権力もあるから柳生家としてはそれを断ることは出来ず、九兵衛は盛々様と女の格好して出かけることになる。
今日の観劇も盛々様からの贈り物の高そうな訪問着に金糸・銀糸がふんだんに使われた帯、帯に合わせた帯締め、大きな宝石でできた帯留め、銀細工が美しいかんざし…土方の一生分の給料をつぎ込んでもさせてやれないような格好で九兵衛は盛々様の隣にいる。

と言っても、九兵衛は盛々様のプロポーズを本気にしてない。
だから『柳生のお姉ちゃん』は『盛々様のお姉ちゃん』になったつもりでいる。
「盛々様、お飲み物は足りそうですか?
お腹はすいてはいませんか?
始まる前に何か買ってきましょうか?」
「大丈夫だよ。
柳生のお姉ちゃん、僕、もう子供じゃないよ!」
盛々様は真っ赤になって九兵衛に抗議する。
一昨日レストランで食事をしたときも、盛々様は口の周りにソースをつけて九兵衛は
「お口の周りが汚れていますよ。」
と言いながら美しい刺繍が施されたはこせこから懐紙をだして盛々様の口を拭ってやっていた。

そう、九兵衛は盛々様を子供だと思ってる。
だけど、盛々様は九兵衛を子供なりに本気でお嫁さんにしたいと考えているのだ。
それは土方にも真選組の面々にも柳生家にも分かってる。
分かってないのは九兵衛だけだ。

盛々様のじいやとはやらは最初は盛々様に
「柳生家のまして男として育てられた次期当主などよりも、盛々様にはもっとよいお嫁さんが来ますよ。」
とか言ってたらしいが、着飾った九兵衛の美しさをみたら途端になにも言わなくなった。
第一あんな子供にあんな高級な着物を買ったり出来るわけないのだから、じいやが手配してるに決まってる。
あんなガキがすごい高級品をポンポンとプレゼントできるようなこの世の中、絶対に変だ。
攘夷浪士の気持ちが今なら分かるぜ。
土方はそう思いながら個室型ボックス席で盛々様と九兵衛の警護をしているわけだ。

ちなみに観劇の後は、予約してある料亭でお食事だそうだ。
いくら幕府に仕えてる柳生家次期当主とはいえ、ガキのお守りはしなくてもいいだろうが!
土方は内心毒づきながらボックス席の隅の方に総悟と一緒に立っている。

VIP席だけあってつくりはゆったりとしてるし、舞台もよく見えるし、これが九兵衛と二人きりだったら最高だったのだろうが、自分は『護衛』で観劇してるのは盛々様と自分の恋人なのだ。
今だって、舞台を見つつも盛々様は九兵衛に何か話しかけ、九兵衛は笑顔でそれに答えている。
「さすがセレブ。
将軍様の甥っ子様、九ちゃんにベタぼれじゃねぇですかィ。」
隣で土方に囁いてくる総悟がまた鬱陶しい。
が、自分を怒らせるためにわざとやってることだと知っているので、土方は青筋たてながら我慢した。
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