銀魂

□きっと言葉じゃ伝えきれないから
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御台所になった九兵衛は将軍家に嫁ぐ際、九兵衛では男の名前だからと、お愛の方と名を改めている。
初代将軍の最愛の側室で二代将軍を生んだ人の名を九兵衛に名乗らせているというのは、それだけ九兵衛に対する将軍の寵愛が深く、周りの世継ぎに対する期待も大きかったのだろう。

そしてその期待通りに九兵衛は結婚後、一年も経たないうちに懐妊した。
そのためか柳生家はますます栄え、輿矩だけではなく、四天王まで幕府の中で要職についた。

でも、それを面白くないと思う幕臣がいるのも事実。

また幕府を潰したい攘夷浪士にとって、九兵衛の輿入れと懐妊はイコール幕府の栄華であり、生まれたのが男子であれば将軍家の血が続くことを意味する。

天人の傀儡になってしまった幕府が続くことをよく思わない攘夷浪士にとって、九兵衛と生まれてくる子が忌々しい存在であることも事実なのだ。

将軍自身もそれを承知しているのだろう。
松平を通して、江戸の治安の安定によりいっそうの努力をしてほしいと寄付金と共に真選組に命が下った。

そして真選組の警邏は頻繁になった。

聞きたくなくても聞こえてしまう九兵衛の懐妊の話題を聞きながら、土方は本日二回目の警邏を総悟と一緒にしていた。

(すげぇな、九ちゃん。
美しき姫とか言われてまさァ。
でも確かに綺麗かもしんねェけど、御台所としてしとやかに振舞うより、剣を握って動き回る九ちゃんの方がどんだけイキイキしてるかこいつらは知らねぇからこんなこと言えるんでさァ。)
ラジオから聞こえてくるアナウンサーの声に総悟はそう内心で思い、ラジオを消した。

ドSの総悟だがきっと俺に気をつかってラジオをきったのだろう、土方はそう思った。

真選組内では暗黙の了解で、土方の前では九兵衛の話はしない事になっている。

土方と九兵衛が付き合っていたこと、とても仲がよかったことは隊士なら誰もが知ってる。
そして、その九兵衛が家のために泣く泣く土方と別れ、将軍家に輿入れして奥に入ったことも知っている。

二人の気持ちを思うと、隊士たちはとてもじゃないが土方の前で九兵衛の話をする気になれないのだった。
それは総悟も例外ではなかった。
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