銀魂

□忘れじの…
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後から知ったのは、高杉が普通に女の格好をした時の九兵衛をたまたま見かけて気に入り、色々調べて柳生家次期当主だということを知ったけど気に入ったので勝負を持ちかけて勝ち、連れ帰ってきたということだった。
女とはいえ柳生家という剣術道場の跡取りとして育てられたせいか
「『勝った方が負けた方のいうことを聞く』という約束をして負けたのだから高杉に俺のそばにいろといわれたら従うしかない、負けた自分が悪いのだから。
武士が一度した約束を反故には出来ない。
が、高杉が逃げれるもんなら逃げてみろとも言ったので、いずれはこんなところからは逃げるつもりだ。」
と悔しそうにいいながら九兵衛は高杉の私室にいる。
高杉が九兵衛に執心してるのは確かで、誰の目にも触れさせたくないと、自分の私室から、九兵衛を出さないようにしている。
それが部下達の噂になるのは当然の事で、『高杉さんの飼い猫』と九兵衛は揶揄されている。
しかし、万斉にはどうにもそうは思えなかった。
彼女と話をしたのは片手で足りるほどの回数だったが、『隙あらばここから逃げ出してやる』ではなく、『隙あらば高杉を斬って鬼兵隊を壊滅させてやる』という意思が感じられた。
そういう気の強いところも晋助の興味をひくのだろう、万斉はそう思っていた。

その九兵衛がいる高杉の私室に万斉が呼ばれたのは高杉が九兵衛を連れ帰ってきてから一ヶ月くらいが経ったころだった。
「ここから一歩も出れねぇのが退屈だと抜かしやがる。
しかし、ここから出すわけにはいかねぇから、ここでコイツになんか暇つぶしになりそうな楽器を教えてやってくれ。」
高杉は九兵衛をまっすぐに見ていて、万斉に話してるにも関わらず、万斉を見ていなかった。
そしてその九兵衛は、黒い長襦袢一枚で高杉の私室のベッドに繋がれていた。
ここに来たばかりの頃の九兵衛は繋がれてはいなかったはずだ。
万斉の考えてることが分かったのか、高杉が嗤った。
「この女、本気でここから逃げようとするから、俺も本気だすしかねぇんだよ。
俺ァこの女を手放す気はねぇからな。
だけど、娯楽も何もないんじゃつまんねぇと泣きやがるからまぁ楽器くらいはな。」
「僕は別に泣いてなどいない!!」
強い口調で自分を睨む九兵衛を狂気と愛情と慈しみと色んな複雑な感情が入り混じった瞳で見つめて高杉は嗤った。
「とにかく、俺の姫さんの退屈しのぎの相手してやってくれ。」
逆らうことなど出来ず、万斉は頷いて、それから週に三日ほど琴や三味線の稽古を九兵衛にするようになったのだった。
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