銀魂

□切れた鼻緒
1ページ/4ページ

プツッという音と共にずるっと足が滑って、足袋を履いた足が地面についてしまい、九兵衛は舌打ちをした。
今日は幕臣の集まる宴会に父・輿矩の名代で参加した帰りだった。
おそらくは父が九兵衛とセレブとの出会いを期待したのもあるのだろう、振袖姿で無駄に着飾って愛想を振りまいて宴会に出席しなければならず、内心はイライラしていた九兵衛は、宴会が終わった後、二次会を断って、早々に帰ることにしたのだ。
昼間っから酒を飲むなんて九兵衛には信じられない宴会だった。
その上、下心みえみえで近づいてくる幕臣やその息子たちは気持ち悪かったし、剣に生きてきた九兵衛には同じ幕府につかえるものとして彼らのヘラヘラした態度は信じられないものだった。
そんなだから二次会など出席するわけがない。
しつこく誘われたもののなんとか振り切って帰ることができたが思い出すだけで腹のたつ宴会だった。
その上、自宅に帰る途中に草履の鼻緒まで切れてしまった。
泣きっ面に蜂とはまさにこのことだ。
持っている手ぬぐいは妙とおそろいで買ったもので、鼻緒をすげかえるために引き裂くのはもったいなくて出来ない。
仕方ない、草履は脱いで裸足で帰ろう。

もう片方の草履も脱ごうとした時、
「あれ、九ちゃんじゃないか?
どうしたんだ?」
と声をかけられた。
「近藤くん、土方くん、沖田くん。」
振り返った九兵衛の前には真選組幹部の三人がいた。
「鼻緒が切れちゃったのか?」
近藤は九兵衛が手にしてる草履に目をとめる。
「ああ。」
「っつか、そんなカッコして今日はどうしたんですかィ?」
総悟は九兵衛が着飾ってる理由の方に興味があるようだった。
「ああ、今日はパパ上の名代で幕府の宴会にいかなければならなくてその帰りだ。」
「……ありゃ、セレブ同士の平たくいやぁ婚活パーティみてぇなもんだと聞いてるぞ?」
土方は普段の数倍機嫌が悪そうだった。
「大方そんなことだろうと思っていた。
パパ上の考えそうなことだ。
しかし、パパ上の思い通りになんてなってたまるか。
二次会は断ってさっさと帰ってきた。」
九兵衛の言葉に土方は安心したように息をつく。
(それで最近のトシは機嫌が悪かったのか。)
近藤は納得した。
総悟はそんな事は知らなかったのでそれを知ったときはむかついたが、あっさりと九兵衛が断ったといったので安心して九兵衛に近寄っていくとその前にしゃがみこんだ。
「俺ァ芋侍なんで鼻緒のすげかえなんてかっこいいまねはできやせんしねィ。
だからおぶってってやりまさァ。
ほれ九ちゃん、俺の背中に乗んなせェ。」
「「「はぁぁ?!」」」
総悟の言葉に、近藤・土方・九兵衛の三人が驚いて叫ぶ。
「だって鼻緒切れてどうやって帰るんですかィ?
裸足で帰るわけにいかねぇでしょう?
だからおぶっていってやりまさァ。」
「いや、おんぶなんて冗談じゃない。
子供じゃないのにそんなマネできるか!」
「だな。
馬鹿だろ、総悟。
とはいってもそれじゃ帰るに帰れないだろ?
俺が柳生家まで送って行ってやる、おんぶじゃなく抱き上げて。」
土方の言葉に総悟が土方を睨む。
二人の間の空気が張り詰めたので近藤が慌てて二人の間に割って入った。
「やめろ、二人とも。
ここを丸く治めるためには、俺が九ちゃんを抱き上げていけばいいんじゃね?」
「「黙れゴリラ!」」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ