過去拍手

□真選組王子(プリンス)・柳生九兵衛
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第1話

桜色の小紋を着て、風呂敷包みを抱えた九兵衛は真選組屯所の裏口から屯所の中に入っていく。
真選組の参謀をしていたし、今では副長の土方の妻。
そんなことをしても咎める者は誰もいない。
むしろ九兵衛を見つけた隊士たちは、
「参謀!
今日は一体どうしたんッスか?」
と嬉しそうに寄ってくる者ばかりだ。
「こんにちは。
君達、もう僕は参謀じゃないよ。
十四郎くんは自室?」
九兵衛はそんな隊士たちにそう聞いた。
九兵衛が真選組の参謀を辞めたのは一年ほど前だけど、未だに九兵衛を慕ってくれる隊士や、九兵衛の復帰を望む隊士たちはいるのだ。
そんなこと口にしたら鬼の副長が鬼神になるから黙っているけど。

「副長なら部屋にいますよ。」
そこにあわられたのは監察の山崎だった。
「そうか、ありがとう。
部屋に行っても大丈夫かな?」
そう聞く九兵衛は、真選組参謀をしてた頃の凛々しさもあるけれど、それ以上に女らしく綺麗になってる。
副長との結婚がそうさせたんだな…山崎はそう思った。

「そよ姫様の警備のために女物の着物を買いたいから選ぶのを手伝って欲しい。」
そういわれて一緒に買い物に行った時に、山崎は違和感を感じていた。
山崎は仕事で女装をする時、内心はすごく嫌なのに、女装するための着物を選ぶ九兵衛はすごく嬉しそうで、おかしいとは思っていたのだ。
その後、複雑な家庭事情を抱えて男として育てられた女だったと聞いて、あの時、女物の着物を選ぶ九兵衛が嬉しそうだったわけを理解した。
その人と副長が実は付き合っていて結婚までしたのには驚いたが、あの副長が妻には弱くて甘いのにはさらに驚いた。
だから今の、隊士たちが近づくのも嫌がるほど機嫌の悪い土方を九兵衛なら何とかしてくれるだろう。
「むしろ、例の件のせいで機嫌が悪いので少しなだめてきてください。
お願いします、参謀。」
山崎はそう言っていた。
「山崎くんまで…もう参謀じゃないってば。
それよりも、十四郎くんはそんなに機嫌が悪いのか?」
「ええ、もう最悪。
屯所の表に報道陣いるでしょ?
一般市民からの電話もあるし、警邏してれば囲まれて質問されるし…。」
山崎の言葉に九兵衛は顔を顰めた。

今、巷をにぎわせているある動画がある。
それは二週間ほど前に動画サイトにアップされたものだ。
昼時のにぎわうファミレスで5人の攘夷浪士を見つけた『サド王子・沖田総悟(18才)』がバズーカをぶっ放そうとしていると、小柄な隻眼の真選組幹部の隊服をきた男が沖田のバズーカを蹴り上げる。
バズーカを蹴り飛ばされた沖田が文句をいうと、
「馬鹿者、攘夷浪士を捕まえても一般人にケガをさせたら意味がないだろう!」
と隻眼の真選組幹部は沖田を怒り、騒ぎに気がついて中の客を人質に取って逃げようとした攘夷浪士を
「レストランの中に入ってもいいか?
まずはきちんと話をしよう。
場合によっては君達の要求を聞いてもいい。」
と説得してレストラン内に入り、入った途端、目にも留まらぬ速さで攘夷浪士を倒して無事に逮捕&一般人および店に一切の損害を与えずに事件を解決した…という内容ものだった。
しかもその後、人質になった人、一人一人に怪我がないかを確認し、事件解決への礼と怖い思いをさせたことの謝罪を行った。
『チンピラ警察』と呼ばれてる真選組にこのように破壊行為を行わず、かつ迅速に事件を解決し、一般人を気遣う参謀がいたこと。
そして、その参謀が隻眼で男にしては小柄だけど綺麗な顔をしていて、しかも強く、そのくせどことなく気品が漂う所が注目されて、「真選組王子(プリンス)」という呼び名まで付けられ、今や時の人になってしまったのだ。

屯所には報道陣がその参謀の画を取りたいと詰め掛け、一般人からの問い合わせもあり、副長の土方は機嫌が悪い。
なぜならば、その時の人となった参謀は、今や自分の妻になった柳生九兵衛だからだ。
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