過去拍手

□最愛
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「ネクタイが曲がっている。」
そう言って九兵衛が土方のスーツのネクタイを直す。
訪問着姿の九兵衛の姿を見ながら、土方はこいつは全然年とんねぇなとか考えていた。
土方と九兵衛が結婚して8年。
九兵衛は28歳になった。
年相応の落ち着きは備わってはいるが、見た目は結婚したときから変わらない気がする。
それでも訪問着を着て髪を結い上げ、きちんと化粧をした姿は普段がすっぴんで道着で門下生と稽古をしているだけにものすごく色っぽく感じ、土方は結婚して8年もたつというのに、九兵衛を直視することができなかった。

今日は愛子の小学校の入学式。
三歳の時に、本人は分からなかったとはいえ、攘夷浪士に誘拐されているから、小学校は安全対策のしっかりしている、私立の小学校に入れる事にした。
入学する学校は九兵衛より土方の方が中心になって選び、受験にも土方の方が熱心だった。
仕事の合間に親子面接の練習をしている土方の姿を見て、真選組の隊士たちは
「あの副長があんなことまで…。
人ってすごく変わるもんだな。」
と噂していたくらいだ。
そんな土方の熱心さのおかげか、愛子は安全対策のしっかりしている私立の学校に無事に合格し、今日入学式を迎えた。
「父上、母上、用意が出来ました。」
夫婦の部屋に外から声がかかる。
「準備が終わるのが早かったな。」
そう言って土方がふすまを開けると、そこには制服を来た愛娘がいた。
顔全体の印象は九兵衛をもっと柔らかくした感じの愛子だが、顔のパーツは土方に似ている部分が多く、土方は九兵衛と自分の子なのだと愛子を見るたび実感する。
そして幸せだと思う。
「似合うな、制服が。
それにしても、お前は本当に大きくなったな。」
三歳の時に誘拐されたことがあるだけに、土方には愛子が無事に育っていくことが嬉しくて仕方ない。
思わず愛子を抱き上げていた。
「もう、赤ちゃんではありません。」
といいつつも、ニコニコしている娘が可愛くてたまらない。
そしてそんな自分たちを微笑んでみている九兵衛が愛しくてたまらない。
俺は本当に幸せだ、土方はそう思っていた。
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