進撃の巨人

□殺したいのはお前だけ
1ページ/3ページ

ペトラがジャンを旧調査兵団本部内に勝手に招き入れた日の翌々日の訓練は班ごとの訓練ではなく全体訓練で、調査兵全員が演習場に勢ぞろいしていた。

昼食の時間になり、兵士はそれぞれが持参した昼食をとることになる。
リヴァイ班は朝ペトラが全員の分のサンドイッチを作ってくれているので、自然と班員だけで固まっていた。
サンドイッチとピクルスと水をペトラがリヴァイ班の全員に配った時
「ええとラルさん…」
と声をかけられ、ペトラは振り返ってそこに立っているジャンに微かに笑みを浮かべた。
それに反比例してリヴァイとエレンの顔は不機嫌そうに歪む。

「ペトラ、でいいよジャン。
何か用?」
ペトラはそんな二人の様子に気がつかずにジャンの方に歩いていく。

「おい…あれだ、エレンの同期のジニーにそっくりな男って…」
オルオの言葉にエルドとグンタも驚く。

オルオが言うくらいなのだから、本当に似ているんだな…エレンがますますジャンを疎ましいと思った時
「どうしたの?」
ジャンの前に立ったペトラがジャンを見上げた。

そのペトラにジャンが手を差し出した。
「すいません、こんなもので。
こないだのお茶とケーキのお礼っつーか…でもなに贈っていいかわかんなくて…それでこれを…」
ジャンが手にしているのは、四葉のクローバーだった。

ペトラが目を丸くする。

「幸運のシンボルだって言うし、たまたま見つけたんで…よかったら受け取ってください。」
ジャンはあさっての方向を見ながらペトラに言う。

ジャンはおいしいケーキとお茶のお礼にペトラに何か贈りたくて、旧調査兵団本部から調査兵団本部に戻ってから、クリスタに女の人への贈り物は何がいいかと聞いたら
「お金かけたほうが相手が恐縮すると思うから、四葉のクローバーとか、咲いてるお花摘んだものとかの方がいいんじゃないかな?
相手の人もお礼しなきゃとか思わずに受け取ってくれるよ、きっと。」
と言われ
「本部の裏庭に結構たくさん四葉のクローバーがあるみたいだよ。」
との情報までもらって、訓練の合間に探したらあっさりとみつかった。
見つけにくい四葉のクローバーがこんなに簡単に見つかるなんて、きっとこれはペトラさんに四葉のクローバーを贈れということなんだ、普段なら思いもしないことをジャンは思い、ペトラに渡そうと決めていた。


ペトラはジャンが差し出しているクローバーを見つめていた。
目の前にはジニーに似た男の人。
そして初めての壁外調査の前にジニーが
「ペトラが無事に壁内に帰ってこれるように、お守りだよ。」
と言ってひっそりとペトラに贈ってくれたものが、四葉のクローバーだった。

ジニーの願いは叶い、ペトラは未だに生きている。
だけどジニーはもうこの世界のどこにもいない。
いないけど、いないはずなのに、この人はジニーじゃないのに…

「ラル…ペトラさんが無事に壁内に帰ってこれるようにお守りみたいなもんです。」
言われた言葉もジニーと同じ。
ペトラの目にみるみるうちに涙が溜まり、それは頬に零れ落ちた。

「ええええ?!
オレ、なんかしましたか?」
ペトラの涙を見てジャンはうろたえる。

うろたえるジャンのクローバーを差し出す手ごとペトラは自分の両手で包んで言っていた。
「ありがとう…忘れ物が届いたような、そんな気分なの、今。」

涙をこぼしながらジャンを見上げるペトラは綺麗で、ジャンは息をのむ。

こんなに綺麗な人、今までに見た事がない。
なんだ、この人…でもすごい綺麗だ。

「ありがとう。
私、守りたい人がいる。
だから調査兵団に入ったの。
初心を、思い出したわ。
ありがとう、ありがとう、ジャン。」
ジャンの手を握って泣きながらありがとうを繰り返すペトラとそんなペトラに顔を赤くしているジャンを、その場にいる調査兵が訝しげに、興味深げに、疎ましげに、羨ましげに見ていた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ