進撃の巨人

□兵長の独占欲
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その日の夕食後、片づけを終えたペトラは食堂でお茶を飲みながら本を読んでいた。
リヴァイはハンジから上がってきたエレンの能力に関する報告書を読んでいた。
エルドとエレンとグンタはリヴァイに報告書を持ってくる際にモブリットが差し入れしてくれた焼き菓子を食べながら、兵士であることはまったく何も関係のない話をしていた。
そこに、自室で立体機動装置の手入れをしているはずのオルオが顔を出した。

「ペトラ。」

オルオに呼ばれ、ペトラは顔を上げる。

「なに?」
と聞きながらオルオの顔を見たペトラはそれだけでオルオが何を言いたいか、分かったらしい。

「あっちのソファに移動するね。」
と立ち上がって食堂においてある三人がけのソファに移動する。
ソファの端っこにちょこんと座ったペトラの膝の上に、オルオは何の躊躇も戸惑いもなく頭を乗せて、ペトラに何かを差し出す。
それを受け取ったペトラはオルオの耳にそっとそれを差し込んだから、それが耳かき棒だと他のメンバーにも分かった。

分かったけれど、理解できない。
リヴァイはペトラが食後に入れてくれたハーブティーの入ったカップを持ち上げたまま固まっているし、お菓子をつかんだままの格好でエルドは固まっているし、グンタはお菓子をかじった状態で固まり、エレンは口をあんぐりとあけていてお菓子のかすをボロボロとこぼしていた。


そんな他のメンバーにオルオとペトラは気付いていない。
「前回耳掃除した時から、結構時間が経ってるよね?」
「ああ、いそがしかったからついうっかり忘れてた。」
「汚れが結構溜まってるよ。
お風呂上りに自分でも綿棒使ってねっていってるのにー。」
「忘れるんだ、仕方ないだろ。」

オルオはペトラの膝の上で目を閉じ、ペトラはオルオの耳を真剣な顔で掃除している。

「うん、こっちはもう大丈夫。
はい、反対。」
ペトラはオルオの耳を覗き込んで息を吹きかけた後、そう言った。
「お前いつも言うけど、その最後の息だけはやめろって。
くすぐってーんだよ。」
「ごめん、なんかつい…汚れが飛んでいくような気がしてね…。」
「息くらいで飛ぶなら耳掃除必要ねえだろ。」

オルオはぶつぶつ言いながらも反対を向き、ペトラは反対の耳掃除を始める。
それも終わり
「終わったよ。」
とオルオに声をかけると、オルオは
「おう。」
と言って起き上がった。


「「どうかした?」」
耳掃除をし終わった方とされ終わった方は、そこで初めて全員が固まったまま自分達を見ているのに気が付いてみんなに聞いていた。
何事にも動じない兵長までがカップを持ち上げて微動だにしないまま、目を見開いている。

「あの、何してるんですか…?」
一番に立ち直ったのは一番若いエレンだった。

「「耳掃除だけど」」
それにオルオとペトラは声をそろえて答えた。

「それは分かります。
そうじゃなくてなんでオルオさんの耳掃除をペトラさんがやってるのかっていうのを知りたいっていうか…。」
エレンは怯まずに頑張った。

「なんでって…オルオとは長い付き合いだし。
ずっと前からこうだよね?」
ペトラはなぜそんな事を聞くの?と言いたそうな顔でオルオを見た。
「そうだが。」
オルオは当然といった顔をしている。

「いえ、オレにも幼馴染がいますけど…耳掃除なんかやってもらったことないですよ…」
エレンはこの状況に何も疑問を持たないらしい二人にそう言っていた。

「それじゃやってあげるね、耳掃除。
おいで、エレン。」
ペトラはエレンの言葉を聞いて自分の膝をぽんぽんと叩く。

「おいペトラ、そいつを甘やかすな!」
「何言ってるの、エレンはまだ15才だよ!
甘やかされたっていい年でしょ?
おいで、エレン。」
オルオの怒声を無視し、ペトラはエレンに向ってもう一度膝を叩く。

エレンは立ち上がるとおずおずと歩き出した。
そしてソファに座るとペトラの膝に頭を乗せる。

「もし痛かったら言ってね。」
ペトラはエレンの耳にそっと耳かき棒を差し込んだ。

ペトラに耳掃除をされながらエレンはそっと目を閉じた。
あの日以来、ずっと人に耳掃除なんてしてもらって来なかった。

母さん…。
母親を思い出して閉じた目から溢れた涙をペトラがそっと拭ってくれた。

「ごめんね、ちょっと痛くしちゃったね。」
きっとペトラは、エレンが泣いた理由を分かってる。
分かってて自分が痛くしてしまったという理由を作ってエレンの涙をごまかしてくれた。

やっぱりペトラさんは優しい。

耳にそっと息が吹きかけられる。
「はい、反対。」
ペトラの言葉にエレンは鼻をすすって反対側をむく。

ペトラからはいい香りがした。
同じ洗剤を使って軍服を洗濯し、同じ石鹸を使って入浴し、同じ食事をしているはずなのに、ペトラからはリヴァイ班の他の誰とも違う優しくて甘い、どこか懐かしい香りがした。

「ペトラさん、いい香りがします…」
エレンは呟いていた。
「そう?
ありがとう。」
ペトラは優しく笑って、エレンの頭をそっと撫でた。

「なんだよこれ…ふざけんなよ…ほんと、なにこれ…」
その雰囲気にオルオはぶつぶつ言い出し、エルドとグンタはますますどうしていいか分からなくなる。
オルオの耳掃除が終わった時点で硬化はとけたものの、エレンとペトラのやり取りに再び硬化してしまった。


「はい、終わったよ。」
しばらくしてペトラがエレンに声をかけ、エレンは起き上がった。
「ペトラさん…これからもオレの耳掃除をして下さい!
ずっと、一生お願いします!」
その途端、エレンはペトラの手を握って叫んでいた。

「「「おいプロポーズかよっ?!
ガキの分際で何言ってんだ?!」」」
エレンの言葉にエルドとグンタとオルオが声を合わせて叫ぶ。

「そりゃ今のオレはまだ15才ですけど…ガキですけど…ペトラさんとの年の差はそんなにないですよね…?」
エレンは外野に向ってそう言うと再び真剣な顔でペトラを見た。

「うーん。
それじゃエレンが甘える側じゃなくて私を甘えさせてくれるような男の子になれたら、その時に考えてみるね。」
ペトラはエレンに微笑みかけた。
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