進撃の巨人

□愛しいのはお前だけ
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調査兵団の制服をもらった時にジャンが
「共同墓地に、訓練兵のまま死んだやつらに、調査兵団に入った事を報告に行って来る。」
と言った。

それに賛同したミカサとアルミン、ライナーとベルトルトとコニーとサシャ、クリスタも行くことになり、クリスタが行くならとユミルも付いてきて、9人は共同墓地に向っていた。

そこには先客がいた。
墓地の前でしゃがみ、手を合わせている一人の女性が。
エンブレムは自分達と同じく自由の翼。
調査兵団の兵士だと分かる。

華奢な感じの体つきで、色素の薄い髪を肩より少し上で切ってある。
目を閉じていたけれど、その横顔は誰から見てもハッとするほど綺麗で、104期調査兵団のメンバーは自然とその人に見入っていた。

もしかしたら、大事な人がここに眠っているのかもしれない。
アルミンはなんとなく、そう思った。
綺麗だけど、この人の綺麗さはなんだか悲しみを内包しているように思えたからだ。

どれくらいそうしていたか、女性は目を開けると小さな声で
「またくるね。」
と言って立ち上がった。
当然、女性を見ていた自分達と立ち上がって帰ろうとする女性の目はばっちりとあってしまったわけで。

その顔をみてアルミンは
「あ!
リヴァイ班の…」
と思わず叫んでいた。

この人はリヴァイ班の人だ。
エレンとたまたま会った時に、エレンが話していた。
班にいる唯一の女性は巨人討伐数や補佐数が男性にも劣らないほど強いのに、優しくてあったかくて綺麗な人だと。

確か名前は…
「ええと…ペトラさん!
ですよね?」

アルミンにペトラと呼ばれた人は
「エレンのお友達…104期の子達だよね。
初めまして、調査兵団のペトラ・ラルです。」
にっこりと笑うと104期に向って敬礼をした。

それに敬礼を返しながら全員が驚いていた。
エレンのために組まれた特別作戦班、通称リヴァイ班はリヴァイ自らが選んだ精鋭で組織されていると聞いている。
こんなに小さな女性がリヴァイが認めるほどの精鋭なんて…。

「制服が届いたんだね。
おめでとう。
似合ってるよ。」
それなのにその人の笑顔は、声は、言葉は、こんなに優しい。

笑顔だけを残して104期の返事を待たないまま歩き出したペトラの背中に思わず話しかけていたのはジャンだった。

「なんであなたみたいな人が調査兵団に入ったんですか?」

「ジャン!
何か言い方が変だよ!」
アルミンは思わずジャンに言っていた。
あなたみたいな人ってどういう意味かによっては失礼に当たると思う。

それに気が付いたのかジャンは慌ててそうじゃなくてと前置きしてからペトラに質問をする。
「いえあの…だってなんか他の道があったんじゃないかって。
調査兵団みたいな危険な仕事じゃなくても、あなたなら他の道があったんじゃないかって思って。
調査兵団に入ることが怖くなかったんですか?」

マルコの死は自分を変えた。
だから憲兵団じゃなくて調査兵団に入団した。
だけど、やっぱり巨人は怖い。
死ぬのは怖い。
夜、悪夢に魘されることもある。

そんなジャンにペトラはふわっと笑いかけた。
「『巨人は怖い。
死ぬのも怖い。
けど、自分の大事な人が死ぬのを見るのはもっと怖い。
だから俺は調査兵団に入る。』
ってね、言った人がいるのよ。
その人は私の同期で、主席で訓練を卒業した人だったの。
私の同期で上位10位以内だった人は私以外はみんな男性でね、大体の人が憲兵団を志望してたし、私は駐屯兵団を希望してたの。
だけど、主席の彼が新兵勧誘式の前日にそう言ったのよ。
それを聞いて、上位十人全員が調査兵団に入ったの。
だからあの年だけはさすがにエルヴィン団長がナイル師団長に嫌味を言われたって聞いたな。
でもみんな、この世界に自分を犠牲にしても守りたい大切な人がいたの。
もちろん、私にもね。
だから調査兵団に入ったの。
守れるものなんか本当に少しだけだけど、それでも大事な人のためだったら戦える、そう思ったのよ。」

ペトラの微笑みは綺麗だけどやっぱり悲しみを内包してる、アルミンはそう思った。

「エレンみたいなやつってどの年もいるのかもしれないな。」
ペトラの話を聞いて思うところあったのか、ライナーが呟く。

「そうね。
確かに彼、性格はエレンに似てたかもね。
でも、彼の見た感じはあなたにそっくりだったわよ、ジャン・キルシュタイン。」
ライナーの呟きに反応したペトラが笑ってジャンを見た。

「オレ?!」
いきなりペトラに名前を呼ばれ驚いてるジャンに向ってペトラは頷いてみせる。

ペトラの視線はまっすぐにジャンに向っていて、だけどジャンを通して誰かを見ている…おそらくはジャンに似ているという同期の首席を。
ジャン以外の誰もがそう思った。
そしてきっとその人はもうこの世界にいないことと、彼女がその彼になにか特別な感情を持っていたのだろうことも。

「っつかなんで名前知って…」
ジャンだけはまったく空気を読んでいなかったけど。

「知ってるわ。
だってみんな可愛い後輩だもの。
ミカサ、ライナー、ベルトルト、ジャン、コニー、サシャ、クリスタ、ユミル、アルミン。
団長も言ってたけど、あなた達ほど地獄を見てきた訓練生は他にいないと思う。
だけどそれでも、調査兵団に入ってくれてありがとう。
あなたたちが調査兵団に入ってくれた、それだけで人類は何歩も前進したと私は思う。」

ペトラの笑顔に104期は自然と笑顔をペトラに返していた。

不安はたくさんある。
ネガティブな考えもたくさん浮かぶ。
それでも今この瞬間、この人の笑顔に104期は気持ちがほぐれて自然と笑う事ができた。

エレンの言ってた通り、この人は強くて優しくてあったかくて綺麗な人だとアルミンは思う。
調査兵団に長くいれば、その分失ったものは多かっただろうに。

その時だった。
「ペトラ。」
彼女の名前を呼ぶ声がして、ペトラも104期もそちらをみた。

足音一つしなかったけれど、そこにはリヴァイが立っていた。

「兵長…本部の団長の元に向ったんじゃ…?
なんでここにいらっしゃるんですか?」
ペトラは驚いた顔をしている。

「お前も俺と一緒に本部に来い。」
リヴァイはペトラの質問には答えずに逆に命令をしたけれど、ペトラは素直に
「分かりました。」
と返事をした。

リヴァイに向って歩き出すペトラの腕をジャンは思わず掴んでいた。
「また、お話を聞かせてください。」

ペトラはジャンの行動に驚いたのか目を丸くしている。
ジャンも自分でしたことに自分で驚いていた。
だけどまたこの人と話をしたいと思った。

「私も、色々教えて欲しいです。」
クリスタがジャンに同意する。

目を丸くしていたペトラは笑って
「機会があったらたくさんお話しようね。」
と答え、ジャンの腕をやんわりと解いてリヴァイに向って歩く。

104期の誰にも分からなかったけど、いつもリヴァイのそばにいるペトラには分かっていた。
今のリヴァイの機嫌がとても悪い事に。
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