進撃の巨人

□エレン・イェーガーの失恋
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リヴァイ班が古城で生活をし始めて一週間が経った。

その日リヴァイはエルヴィンに呼ばれて不在で、ペトラはハンジに連れ出されて町へ買い物に行っていた。

それで、昼食はエレン、グンタ、エルド、オルオの四人で取っていた。
普段ならペトラが色々と話題を提供して話は尽きないが、今日はペトラがいないので、会話もいまいち盛り上がらない。
静まり返った食堂に恐る恐るといった感じのエレンの声が響いた。

「オルオさんってペトラさんと長い付き合いなんですよね?
ペトラさんって恋人とか…いるんですか?」

エレンの質問に全員が唖然とした。

「なんでそんな事聞くんだ?」
その全員を代表して、一番に自分を取り戻したエルドが聞き返した。

「ペトラさんって優しくて綺麗じゃないですか?
綺麗なお姉さんって感じで…もてるんだろうなって思って…」

顔を赤くしてうつむいたエレンに三人は
『ああ、こいつ15才だったっけな』
と納得した。
エレンは15才。
まだ子供だ。
見た目は綺麗だし、優しいし、エレンにとってペトラは確かに『綺麗なお姉さん』だろう。
巨人討伐数10体、討伐補佐48体、一度敵と対峙すれば男顔負けの言葉遣いで戦うペトラでも。

「昔からお姉さんだったわけがないだろう。
ペトラにだってガキの頃はあったんだから。」
エルドが答える。

「まぁでも、新兵からすれば綺麗なお姉さんかもな。
俺達には可愛い妹みたいな感じだが…」
グンタが複雑そうな顔をしてオルオを見た。

「同年代の間では結婚したい女とか言われてるみたいだがな。
戦友に舌を噛み切って死ねとか言う女のどこがいいのか分からんが。」

「要するに年上からは妹属性と思われて、同年代からは結婚したい女で、年下からは綺麗なお姉さんと思われてるということになるな。
まぁ…ペトラにひっそりと憧れる男は多いな。
敵と戦う時は男より男らしいがな。」
結論づけたグンタに
「そうじゃなくて、恋人がいるかどうか知りたいんですってば。」
グンタの答えが気に入らなかったらしいエレンが年相応にふてくされた顔をする。

「恋人っつったって…なぁ…」
困ったような顔をしてエルドがグンタとオルオを交互に見た。

「恋人…ってなぁ…」
困ったようにグンタもエルドとオルオを見る。

「恋人っていってもなぁ…」
オルオも普段と違って歯切れが悪い。

「いるんですか?」
そんな三人の様子を見てエレンが少し悲しそうな顔をした。

「いや、恋人という存在はいない。」
グンタの言葉に途端にエレンはパァッと顔を輝かせた。
「本当ですか?!」

「っつったって、ペトラがお前と付き合うことはないだろう。」
エルドが呆れている。

「でもペトラさん、オレにすごく優しかったですよ。
この間、夜眠れなくてここで一人でボーっとしてたんです。」
エレンは顔をかすかに赤くしながら話し始める。

興味を持ったエルド、グンタ、オルオは表情で先を話すように促した。

「そこにペトラさんが入ってきて、明かりが漏れてたから気になって覗いてみたのって言ってくれたんです。
ペトラさんって寝る時はひらひらしたの着てるんですね。」

エレンの言葉に三人はごくたまーに見かけたことがあるペトラのネグリジェ姿を思い出す。
見た目は女らしいし、自分達と同じ巨人の討伐数を誇りながら謙虚で、応急処置もできるし、死に行く人のために涙を流せる優しさも持っている。
だけど彼女は女でありながら女ではいられない、調査兵団の兵士だ。
その反動か、ペトラは私服や寝巻き、部屋のインテリアなどは可愛らしいものを選んでいる。
普段のペトラしか知らないエレンには刺激が強すぎたかもしれない。

「ああまぁペトラのかっこうは置いておいて、それでどうしたんだ?」

「それで眠れないの?って声掛けてくれて。
地下室で一人で寝るのって結構気が滅入るんですよ。
そう言ったら安眠効果があるとかいうハーブティー入れてくれて、体が温まったところで『エレンが眠れるまでエレンの部屋でお話してあげるね』って。
オレの部屋に一緒に来てくれて、ベッドに寝てるオレの手を握って、昔話を話してくれたり、歌を歌ってくれたりして、すごい安心してぐっすり眠れました。
それからも時々、そうやってくれるんです。
別に付き合いたいとかは思わないですけど…だってオレにはもったいない人だし。
でも恋人ができたらなんか寂しいなって。
そうしたらもうオレにかまってくれないのかなって思って…」

話してるうちにエレンの顔は徐々に寂しそうになってくる。
その顔をみてエルドもグンタもオルオもエレンがまだ15の子供だということを思い出した。

それなのに、彼を取り巻く環境はただの調査兵団兵士よりもはるかに厳しい。
自分自身の生殺与奪を、他の誰かに握られているというのがどんな気持ちか、三人には分からないからだ。

とはいえ…とはいえ…三人が頭に思い浮かべたのはリヴァイの顔だった。
リヴァイは神経質だし、粗暴だけれど優しくないわけではない。

それでも誰の目から見ても(エレン除く)、ペトラに対する態度が部下に対するもの以上の感情を含んでいる事は、明らかだ。
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