進撃の巨人

□最後の祈り
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手のひらの血が、徐々に熱を失っていく。
リヴァイに『意志』を残した兵士の命が失われ、リヴァイの手に付いた血の温度も下がっていくけれど 彼が残した力はリヴァイの中で息づく。

人類最強と言われる男は死んだ部下の意志を抱えこみ、巨人を全滅させる力に変えてきた。
それはこれからも変わらない。

立ち上がったリヴァイの後ろで涙声のペトラ・ラルが何かをつぶやいた。

「今なんて言った?」
振り返ったリヴァイに驚いたような顔を見せたのは一瞬で、すぐにペトラは表情を戻す。

「安らかに。
そして次にあなたが生まれ変わる時は巨人の居ない平和な世界を、と。
彼に伝えました。」

「お前は生まれ変わりを信じるのか?」
巨人が北上している今、無駄な話をしている時間はない。
すぐに戻るべきなのは分かってる。
けれどリヴァイはなぜかは分からないけれどペトラにそう聞かずにはいられなかった。

「ええ。
……いえ、正確には信じてるのではなく、信じたい、ですね。
じゃなかったから辛いじゃないですか?
意志を残す方も、残された方も、希望がなかったら辛いだけでしょう?」
微笑んだペトラをリヴァイは初めて美しいと思ったが、それと同時に弱者が強者に食われるこの世界に、希望なんて残酷な言葉だとも思う。

「希望か。
言葉だけなら綺麗だが、そんなもんが本当にあればこんな世界じゃねぇだろ。」
若いペトラ相手に大人気ないとも思ったが、リヴァイはそう言わずにはいられなかった。


調査兵団は人類の希望などと言われているが、希望になるような情報なんて持って帰ってこれたことはない。
それどころか壁外遠征に出るたびに、多数の兵士を失っている。

それでも人々は希望を調査兵団に託す。
希望など今まで一度も得ていないのに。
それでも人はそれに縋らずにいられないのだから、残酷だとリヴァイは思っている。


「それなら『祈り』と言い換えればいいでしょうか?
そうですね、希望よりは祈りと言った方がいいかもしれません。
だれだって巨人は怖いです。
私だってそうです。
けどそれでも人類は戦いを止めない。
それは巨人という恐怖のない世界を望んでいるからです。
だから、そのために心臓を捧げていった同士への私からの最後の祈り、ですかね。」

大人気ないリヴァイの言葉を受け流して笑ったペトラはやはり美しくて、リヴァイは目を伏せた。
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