ONE PIECE倉庫

□出会ったことの、その意味を
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「夜のうちに宮殿をでるわ。」
ナミからそう告げられたことの意味が分からないほど、ゾロはバカじゃなかった。

「ビビは一国の王女よ。
無理に連れて行く事も、強引な勧誘も出来ない。
本人の意思に任せることしか、私達にはできないの。
それは分かってるわよね?
ビビがどんな決断をしても後悔しない様にね。」
それはつまり…ビビが俺たちと来る可能性が少ないと思ってるって事か、ゾロはナミにそう聞きたかったけど、怖くて聞けなくて、だから頷くだけだった。


夜に出発するとナミは言ったから、ゾロはビビを探した。
そしてビビは王宮の屋上にいた。

そこからまだ戦乱の爪あとが残るアラバスタを見ているビビに、ゾロは声をかける。
「ビビ。」

ビビはゾロの声に体をびくっと揺らして、それから振り返った。
「ブシドー、どうかしたの?」
その笑顔は、強張っていた。

ゾロがビビに何を言いたいのか、なんとなく分かってるのかもしれない、ゾロはそんな事を思いながら
「今日の夜にはここを出る。」
とビビに告げる。
ビビはすでにナミから聞かされていたのか、驚いたような様子もなく、
「そう。
この国を救ってくれて本当にありがとう。」
ゾロに向って微笑んだ。

その微笑にごまかされたままで、ビビの今後の事なんか聞かずにいたかった。
けど、聞かずに逃げても何も変わらない。

「それで、お前はこの後はどうすんだ?
俺たちと一緒に来るんだよな?」
それは自分の口から出たとは信じがたいほどの、情けない声だった。
問いかけではなく、懇願に近かった。
そんな自分史上最強に情けないゾロに向ってビビはふんわりと微笑む。

「私はこの国を愛してるから。
今度はこの国を復興させてみせるわ。
だから、一緒には行けません。」
ふんわりとした微笑みなのに口調はきっぱりとしていて、ゾロは驚く。
そこには『行かない』というはっきりとした意思が現れていた。

あの船にビビが始めて乗った時は『やんちゃな姫さんだな』としか思っていなかった。
だけどルフィの冒険についていく無鉄砲なところとか、国と民を背負い、早く国に着きたいだろうにナミを医者に見せることを決めたり、銃で撃たれても手を突いて医者を呼んでくれなんて言える様な、そんな誰より強くて、誰より優しいところに惚れて。
ビビだって自分を好きだと言ってくれたのに…。
それなのに、こんなに簡単に自分との時間じゃなく、アラバスタを選ぶもんなのか?
俺の存在って、こいつにとってなんだったんだ?
こんな簡単に切り捨てられるような軽い存在だったのか?
ゾロの中でそんな事ばかりがぐるぐる回る。

「俺たちの関係って、一体なんだったんだ?
最初から国を選ぶつもりだったんだろ?!
なら、俺たちの出会った意味は何だったんだ?」
ゾロはそう呟いていた。

国を選ぶなら、自分の気持ちに応えないでいて欲しかった。
自分の気持ちを突っぱねて、ずっとずっと王女でいて欲しかった。
自分の前では王女じゃない、ただの『ネフェルタリ・ビビ』という一人の女でしかなかったのに、国を選ぶくらいならそんな顔を見せないでくれたほうがよかった。

「ブシドー、人生に意味のないことなんてなにもないのよ。
だって、あなたたちと出会えなかったら、この国はなくなっていたもの。
そしてあなたに会えなかったら、私は人を愛することの本当の意味を知らないままだったわ。
あなたに会えたから、私は人を愛することの本当の意味を知ることが出来たわ。
だから、この国が復興したら。
その時は、あなたに会いに行く。
今はあなたの背中を見送るわ。
だけど、この国が復興したら、私はあなたの背中を追いかけていく。
そして今度は、必ずあなたの隣で、あなたが世界一の剣豪の夢を叶えるのを見届けるわ。
あなたが私の、国を救いたいという想いを私の隣で叶えてくれたように。
ねぇ、ブシドー。
意味のない出会いなんかないわ。
だからこの国を復興させたら、あなたと出会ったことのその意味を、あなたの隣で一生一緒に考えたいの。」
ビビの笑顔はすごく綺麗だった。

女って強ぇ。
ゾロはそう思った。

国を選ぶなら出会った意味はなんだったんだなんて言ってしまった自分と違う。
ビビは、もっともっと先を、その先にある未来を考えていたんだから。
この王女様にゃかなわねぇな、ゾロはそう思う。

「待ってるから、必ず追いかけてこいよ。
だから今は黙って、お前をここに残していく。」
ゾロの言葉にビビは笑った。
それはゾロが今まで見た中で、一番綺麗な笑顔だった。

ゾロが世界一の剣豪になる時、その隣にはビビが居て。
そして、世界一の剣豪になったゾロがビビのために、王下七武海に入ってからビビと結婚してアラバスタ国女王、ネフェルタリ・ビビの夫になる…それはまだまだ先の事。

だけど、これから別れる二人が見てる未来は明るくて希望に満ちていることを、ゾロは今なら信じることが出来る。

出会ったことの、その意味を一生彼女と共に考えながら過ごしていく、そんな未来が待ってると。

END

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