黒子のバスケ

薄羽蜉蝣・陸
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さつきが京に発つ前日、大奥に来て文貴以外の子供を一人づつ膝に乗せ、それぞれに言った言葉を花宮は黙って聞いていた。

「ふっくん、母上がいない間もお勉強はしっかりしてね。
お兄ちゃんはこれから将軍になるためにいろんなお仕事を覚えなくちゃいけないの。
そのお兄ちゃんを、ふっくんは助けてあげて。
兄弟で力を合わせたら、どんな難しいことも一緒に解決できると思うの。
母上にもお兄ちゃんと弟がいたんだ。
でも二人とも、母上より先にお星様になっちゃって、母上は寂しかったよ。
ふっくんにはお兄ちゃんもいるし、ふっちゃんも愛ちゃんもいる。
でもお兄ちゃんはお仕事が大変で、三人に構ってあげることができない時もあるかもしれない。
そういう時は、ふっくんが助けてあげて欲しいの。
それと、母上とお兄ちゃんは、明日からしばらく京都っていうところに行ってお城にいなくなるのよ。
お兄ちゃんがいない時は、ふっくんが一番年上になるから、お城のこと、よろしくね。」

「母上、僕、頑張る。
お城のことは任せてください。
だから、兄上と一緒に無事に帰って来て下さい。」

涙声で藤也は言った。

「ありがとう。
愛してるわ。」

藤也を抱きしめ、頬ずりしたさつきからは愛情が溢れていた。


「ふっちゃん、母上が帰ってくる頃には長刀も、お茶もお花も舞もお琴も今よりずっと上手になってるんだろうね。
それに綺麗にもなってるのかな。
そうしてあなたが愛せる人に愛されて嫁ぐ日が来ることを母上は願ってるわ。
でもあなたは桃井家の娘。
その誇りをいつまでも忘れないで。
文貴も藤也も、この国を守るためにこれからいろんなものと戦っていかなきゃいけないの。
そんな二人を支えてあげて欲しいのよ、きっと二人とも疲れちゃう時もあるだろうから。
そんな時、藤乃が笑顔でいれば、二人のお兄ちゃんはその笑顔のために頑張れるよ。」

藤乃を抱きしめた後、額と額を合わせたさつきに藤乃は
「うん。
父上がいつも言っているの。
武家の娘だから、強く、優しく、賢く、そして美しくありなさいって。
私、お勉強も頑張るから、母上も兄上も無事に帰ってきてね。」
と答えた。

藤乃がいう父上がだれかは分らない。
今はまだ、大奥では御台も側室もみんな父上だ。

けれど、どの父上も娘二人の顔をみるたびに言う言葉だ。
『武家の娘だから、強く、優しく、賢く、そして美しくありなさい、母上のように。』
こんなに小さくても、それを胸に留めてる藤乃は、さすが桃井の姫君だ。


最後にさつきは、愛を膝に乗せた。
まだ幼い愛は、母に抱かれ、キャッキャッと笑い、さつきに抱きつく。

「愛ちゃん、まだ小さい愛ちゃんと、しばらく会えなくなっちゃうから母上、寂しい。
でも母上、無事に帰ってくるから、その頃には愛ちゃんも綺麗な字が書けるようになってるかな?
母上、楽しみにしてるね。
だから、お兄ちゃんとお姉ちゃんと仲良くしてね。」

「字だけじゃなくて、他の事もじょーじゅになるよ!
愛ちゃん、お花とお茶のお稽古もしてるよ!
それに、兄上も姉上もやさしいから大しゅきだよ!」
どこか舌っ足らずな言い方の愛を強く抱きしめるさつき。

福井を愛してると言っていても、それ以上にさつきが愛しているのは子供達なんだなと花宮は思う。

福井が言った『お前、愛してても愛されてても、なんにもできない状態がどんだけ苦しいか、想像もできねぇわけ?』の意味を、花宮は今更ながら重く受け止める。

そして、そんな子供達を任されている自分の責任の重さもだ。

「花宮、あとを頼む。」
と言って、中奥に戻っていくさつきを中奥まで送りながら、花宮はさつきが戻ってくるまでに今よりさらに素晴しい教育を三人にしなければと誓う。

そうしてさつきは文貴と福井と共に京へ発った。

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