銀魂

□私立・万事屋学院高校の体育祭・全体練習初日
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体育の授業中に体育祭の練習をしていたのは二週間ほどで、6月後半に行われる体育祭のための練習は、二週間も経てば、全体練習に変わる。

今日は、全体練習の初日だった。
全体練習の時は、さすがにどの教師もジャージ姿になる。

九兵衛は白い上下のジャージ姿だった。
長袖長ズボンで暑そうだが、高杉が暑くないのか聞いたら、
「日焼け対策だ。
僕は日に焼けるとすぐに肌が赤くなって痛くなる。」
と答えた。

部活は室内でやっているし、球技大会の練習の時はグラウンドと体育館を往復して日焼け止めだけでなんとかなったけど、長時間外にいる体育祭の練習では日焼け止めだけでは日焼けは防げないらしい。

首元まできっちりとジャージのファスナーをしめていて、ちょっと残念な気もするけれど。
松平と笑顔で話してる九兵衛を見ながら、生徒達はそう思っていた。

そんな九兵衛の姿を見ていたのは銀時も一緒で、銀時は隙のない九兵衛の格好にほっとしていた。
薄いTシャツにハーフパンツなんてはかれたら、飢えた男どもの巣窟にオカズを投げ込むようなものだ。

最近は服装について一切銀時の言うことは聞かない九兵衛だけれど、体育祭の練習の格好は銀時にも文句の付けようがない。
よかった。

それと、お登勢の叱責もよかったのか、あやめも学校内で銀時にべたべたするのは止めてくれた。
銀時が部活に顔を出すようになったから、帰りも今は週に一回ほど、一緒に食事に行くくらいになっている。

ただ、心配なのは家に泥棒に入られた伊藤を気にかけている九兵衛だ。
同情が特別な感情に変わる事もあると思う。
伊東の方は完全に九兵衛に恋をしているし。

九兵衛が伊東を柳生家に泊めた翌日などは、メールでこれから伊東と一緒に登校するなんて連絡が来て、すぐに電話して
「そんなことして、生徒と一緒に登校してきた、付き合ってんじゃないの何て噂になったらどうすんの、別々に登校しなさい!」
と叱りつけた。
天然がすぎると思う。

そんなことをぼーっと考えていたら、いつの間にか騎馬戦の練習が始まっていた。

「騎手のはちまき長くないですか?
僕がいた頃、あんなに長くなかったと思うんですけど?
あれじゃ、後ろからこっそり近づいて簡単にとれちゃうと思うんですけど?」
九兵衛が隣にいる全蔵に言っている。
「去年の三年の奴らが騎馬戦でガンガン殴り合いしたんだよ。
それで、まぁ怪我を少しでも減らすためにね。」
全蔵はそう答えている。

「そうなんですか……高杉!!!
人を殴ろうとしない!!
騎馬戦だぞ、殴り合いじゃないぞ!」
九兵衛が声を上げる。
名指しで呼ばれた高杉は仕方ねぇな、みたいな感じで拳を引っ込めた。

「眼鏡狙うな、河上!
桂の髪を引っ張ろうとするな、南戸!」
体育科の松平より、九兵衛の方がよほど生徒を見ている。
こうして騎馬戦は、怪我人を出すことなく無事に終了した。

「桂、ちょっとこっち来なさい。」
騎馬戦が終わった後、退場門に退場した桂を九兵衛は呼び出し、校庭の隅に連れて行く。

「あぶないから髪を結びなさい、結んであげるからちょっとかがんで。」
そう言って九兵衛は桂をかがませ、ただ下ろされているだけの長い髪を自分の腕に付けていたゴムで結んであげている。

「かたじけない。」
「お前は面白いな、かたじけないって……ふふふ。
あぶないから、明日から体育祭の練習の時はきちんと結んできなさい、ひっかかったりしたらどうするんだ。」
桂の髪を自分と同じポニーテールに結ぶと九兵衛はそう言って笑う。
桂は少しだけ顔を赤くして頷いた。

それを見ていた銀時はまたそんなヅラを勘違いさせるようなことしやがって!と怒っていたが、九兵衛ファンの男子達も桂にギリギリしていた。
しかし九兵衛はそんなことも知らず、教職員席に戻る。

「はい、次は借り物競走な!
競技者はさっさと入場門へ行け。」
適当な松平のアナウンスに競技者が入場門へと移動する。

借り物競走の借り物は、体育祭実行委員が適当に決めている。
一年から走り始め、二年、三年の順で走るようになっている。

「眼鏡貸して下さーい!!」
「青組の誰か、はちまき貸して下さーい!」
「えっ、ちょっと松平先生、一緒に走って下さい!」
などの声が上がり、九兵衛も楽しそうにその様子を見ている。

銀時は九兵衛が楽しそうにしているから安心していた。
借り物の変なものはあまりないし。
坂田先生の咥えてるあめという借り物に関しては、おかしいと思ったけれど。

一年生、二年生が無事に走り終え、三年生の番になった。
ピストルの音共に走り出した中で、トップは高杉だった。
高杉は借り物の紙を開き、固まった。

「高杉!
抜かれるぞ!」
と声を上げた九兵衛に向かって、高杉は我に返ったように一直線に走ってくると、
「借り物!!
柳生先生をお姫様抱っこで連れてこいだってよ!!」
と驚く九兵衛を軽々と抱き上げ、ゴールに向かって走り出した。

「なんだ、その借り物!」
「俺もそれに当たりたかった!!!」
など、生徒からも声が上がる。

銀時はもちろん、教師陣は唖然としてその様子を見ていた。
高杉はトップでお姫様抱っこした九兵衛と共にゴールする。

「今のレースは赤組が一位です。
借り物は柳生先生をお姫様抱っこでゴールしろ、OKです!」
確認した体育祭実行委員がアナウンスする。

「こんな借り物あってたまるか!
体育祭実行委員の借り物競走担当者と委員長と副委員長!
後で国語科準備室に来なさい!」
体育祭実行委員のマイクを奪って九兵衛が叫ぶ。

「すいませーん、柳生先生!
でも生徒のやる気のために許して下さーい!
三年生の借り物競走はレースのたびに一枚だけ、柳生先生をお姫様抱っこって借り物がありまーす!」
体育祭実行委員長の生徒がマイクで叫び返す。

「ばかな事してんじゃねぇ!!
後で体育祭実行委員は全員生徒指導室に来い!」
それを聞いた松平もマイクで叫ぶ。

「松平先生、それなら多数決とりましょう!
柳生先生をお姫様抱っこしたい人!」
それに対して、体育祭実行委員長の生徒がマイクで問いかけ、生徒達が
「抱っこしたい!」
「三年だけとかずるい!」
「いいじゃんそれくらい!」
などと騒ぐ。

そのうちに、ゴール地点に近藤にファイヤーマンズキャリーで運ばれてきた辰馬と、万斎におんぶで運ばれてきた全蔵が着いた。
「柳生先生だけじゃ不公平なので、坂本先生をファイヤーマンズキャリー、服部先生をおんぶって言うのも一緒に毎回入ってます、許して下さーい!」
体育祭実行委員長の生徒が再びマイクで叫ぶ。

「ファイヤーマンズキャリーはいやじゃな。」
「生徒におんぶなんかされてたまっか!」
辰馬と全蔵も九兵衛に渡されたマイクでそう言うけれど、
「賛成の人、手あげてー!」
体育祭実行委員長の生徒が叫ぶと、全生徒が手を上げた。

「ふざけんな、教師をなんだと思ってんだ!!!」
思わず銀時は実況席に行ってそこのマイクで叫んだ。
なんで自分の妻を他の男にお姫様抱っこさせなきゃなんねーんだ!

だけど、その一連のやりとりを見てたお登勢が
「うるせーんだよ、てめえら!
マイク使ってやる事じゃないだろ、めんどくさいからもう生徒の要求きいてやんな!」
とマイク使って言ったので、生徒達は拍手して喜び、教師達は不満げな顔をしている。

しかし、理事長命令だから仕方ない。

「東城にお姫様抱っこされるのとか、嫌なんですけど……。
折角、男に触られると投げる癖が直ってきたのに、東城だけは投げ飛ばしてしまうんですが……」
唇をとがらしている九兵衛に
「「そうならないように祈ってやるから……」」
辰馬と全蔵はそう言うしかなかった。
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