銀魂

□花魁道中・玖
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同じ頃、土方はかぶき町の祭りの警備責任者として、祭りの本部に詰めていた。
本部には、この祭りに寄付をしてくれた人の名前が張り出してある。
その筆頭にあるのは『鬼兵屋 高杉晋助』。

そして、今日は紋日だというのに、池田屋には総仕舞いの客がいて、仕事が終わった後でも登楼できない。
その総仕舞いの客である、河上万斎。
2人とも、きな臭い人物だと土方は思っている。
鬼兵屋に関しては密偵が付いてるが、今のところ特に法律に反した行為は見当たらないと報告を受けている。
後暗いところが無いということはありえないはずなので、うまく隠しているんだろう。

河上万斉については1度、池田屋ですれ違ったことがあるが、それだけだったのに土方の勘がこの男は堅気の人間じゃないと告げたくらいだ。
上っ面は取り繕っていても、土方には分かる。

それに紋日に総仕舞いなんてなかなかできることじゃない。
もともと資産家や名家に生まれて商売に成功していたとしても、それでも紋日の総仕舞いにかかる金額は簡単に捻出できないだろう。
それをやってのける河上万斎は、きっと自分に対して
『九兵衛の身請け金を用意するのも簡単だ』
と言外に示しているに違いない。
だけどそれがかえって河上はなにか犯罪に加担している人物だと土方に確信させた。

二人とも、必ずしっぽをつかんで逮捕してやる、土方はそう自身に誓っている。

九兵衛が年季明けの引き取りを高杉にお願いしたいと言った時に、土方は自分が真選組を辞めることも考えた。
自分が真選組副長だから九兵衛が自分の妻になれないと言うなら、自分が真選組を辞めればいいのではないかと思った。

それに近藤や総悟、伊東も九兵衛のもとに通っていて、そのせいで屯所の雰囲気がギクシャクとしている時がある。
そしてそれを九兵衛が気にしているのも知っている。
自分が登楼した時に、他の真選組幹部が登楼していたりすると自分も気まずかったり、頭にきたりもする。
一週間前など、伊東と鉢合わせしてしまい、お互いににらみ合ってしまった。
九兵衛と一緒に過ごした余韻が、次に九兵衛と過ごすらしい伊東の顔を見た途端に全て消し飛び、一触即発の状態になった。
「仲良うしなんし。」
と九兵衛が声をかけなかったらきっと、お互い刀を抜いていたと思う。

だからこれはもう辞めどきなのではないか、と思い、転職活動を秘密裏にしてみたりもした。
しかし、今と同じ条件での転職先は見つけられなかった。
武装警察真選組の副長という立場がどれだけ恵まれているか、皮肉にも転職活動をしてみて分かった。

だからそれならもう、真選組副長として、堂々と九兵衛を身請けすると決めた。

いつだったかの誕生日、九兵衛は土方に言った。
「生まれてきて本当によかった。
十四郎と今生で結ばれなくても、これからも十四郎に辛酸を舐めさせても、十四郎以外の人と生きていく事を決めても。
それでもこの世に生まれてきてよかった。
十四郎に出会えてよかった。」

でも土方は、九兵衛以外の人と生きていくことはできない。
それだけ彼女を愛している。
だから、まずは年季明けの引き取りが決まっている高杉、それから経済力にものを言わせて何かをしてくるかもしれない河上を調べるところから始めよう、そう決めていた。
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