黒子のバスケ

陽泉の一日ガイド
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そう確信するような、二人の態度だった。
さつきが福井の服を選んでいれば、氷室がさつきに話しかける。
さつきが氷室と話をしていれば、福井がさつきに話しかける。
そして福井と氷室は意味ありげに視線を交わす。
まるでお互いを邪魔だとでもいいたげだ。

そんな状態で岡村も劉もなかなかさつきに話しかけられなかったが、さつきの方から色々と気を使ってか二人に話しかけてくれる。

そんな彼女の姿を見ていると、福井と氷室の気持ちは分かると岡村も劉も思う。
だって彼女はかわいい。

福井と氷室の服を選んだあと
「少し休憩しますか?
こちらは暑いし、疲れませんか?」
なんて気遣ってくれるところもポイントが高い。
とはいえ、普段から部活で鍛えてる岡村は自分は疲れていないけれど、さつきの方が疲れてるかもしれないと
「それじゃ少し休憩にしよっかい。」
と言っていた。


五人はフードコートに向かう。
そんなに疲れてはいないと思っていたけれど、実際に椅子に座るとホッとする。

やっぱりそれなりに疲れてたんだな、そう思いながら岡村は
「桃井だけわしのおごりじゃ。
何を飲む?」
と聞いていた。

「いいんですか?
ありがとうございます、ごちそうさまです!
それじゃ…」
「さつきはさくらんぼが好きだと敦から聞いたことがあるよ。
主将、そこのショップの夏季限定のさくらんぼソーダがいいんじゃないですか?」
言いかけたさつきの言葉を遮ったのは氷室だった。

「そうなのか?」
さつきに聞く福井はちょっと悔しそうだった。
「そうです、氷室さんよく知ってましたね〜。
それでお願いします、岡村さん。」
さつきは福井と岡村に向かって微笑む。
「任せろ!
お前らのはおごらん。」
岡村はさつきに親指を立てて見せてショップに向かっていく。

「あいつ、ぜってーオレらのは買ってこないな。
劉、氷室、自分の飲み物買いに行くだろ?
オレのもよろしく。
オレ、コーラな。」
福井は自分の財布から千円札を取り出すと劉と氷室に渡す。
「これで買えるんだったらお前らのも買ってきていいからな。」
そういわれてしまえば、断れるわけがない。
氷室は仕方なく劉と一緒に飲み物を買いに行く。

「福井さん、あの綺麗なお姉さん気に入ったアル。」
「そうみたいだね。」
劉に答えながら氷室はそっと振り返る。
さつきと福井は今日会ったばかりとは思えないくらい親しげに話していた。

データ上は知っていたとはいえ、今日が初対面の自分達にアナウンスを聞いて手助けを申し出てくれるやさしさだとか、屈託のない笑顔だとか、見た目もそうだけれどそれ以上に自分達の好みに合った提案をしてくれる気遣いに氷室自身も好感を持った。
それはきっと、岡村も劉も福井も一緒だと思う。

けれど福井の感情はきっと、自分と似たようなものだと思う。
自分もそうだけれど、福井も割りと見た目だけで女子に騒がれるほうだ。
気遣いも何もない、一方的に騒ぐ女子には辟易しているから、逆にこういうタイプに弱いんだろうと思いつつ、氷室は福井から渡されたお金で自分のジンジャーエールを買った。
劉もウーロン茶を買っていた。

その後、氷室は自分の財布を出して隣のアイスクリームショップに行き、チェリーフレーバーのアイスクリームを買った。

「それは氷室が食べるアル?」
「ちがうよ、さつきに。」
そう答え、氷室は席に戻る。
すでにさくんらぼソーダを買ってきた岡村も戻ってきていて、三人はWCについて話している。
今年のWCは記念大会で、優勝校の洛山と準優勝校の桐皇はWC出場が決まっている。
だけど来年からは記念とか関係なく、IH枠ができるみたいだとか、そんな話をしていた。

「福井先輩、ジュースご馳走様です。
さつきは本当に情報通だね。
ところでこれ、食べる?」
氷室は笑顔でさつきにアイスのカップを渡す。
「オレのおごりだから、よかったら食べて。」
「うわぁ、いいんですか?
ありがとうございます!」
さつきは嬉しそうな顔になってそれを受け取る。

その時だった。
「あれ〜?
さっちんじゃんー。」
間延びした声がして、全員がそっちを振り向く。
アイスクリームのトリプルカップを手にした紫原がそこにいた。

「「「紫原っ!!」」」
「敦!!」
「ムッくんっ!」
5人の声が重なる。

「あれれ〜?
なんでみんなさっちんと一緒にいんの〜?」
紫原は長い足を無理やり折ってさつきの腰掛けていたソファの隣に座る。

「ムッくん館内アナウンス聞かなかったの?
ムッくん岡村さんたちに呼び出されてたんだよ?
私、たまたまここにいたんだけどムッくんを呼び出すアナウンスが三回もあったから陽泉の人とここにきてはぐれたんだなって思って、困ってるだろうなって思ったから合流させてもらったの。
ムッくんはどこにいたの?」
こめかみをヒクヒクさせている陽泉の四人に代わってさつきが紫原に聞く。

「三階の〜、駄菓子屋とゲーセンだよー。」
「そう、それでおなかすいてここに来たんだね。
でも一緒に来た人を置いて行っちゃだめでしょう?
今からは岡村さんたちと一緒に行動するんだよ、一緒にいてね。」

さつきが紫原に言い聞かせた時、さつきの携帯がなった。
「ちょっとすみません。」
断って電話に出たさつきは
「青峰くん?
え、あ、そう。
うん、いつものSCだよ。
え、迎えに来てくれるの、ありがとう。」
といって携帯をしまう。

「今日は本当に楽しかったです、ありがとうございました。
うち、ここから結構近いんです。
青峰くんが迎えに来てくれるって言うので、私、帰りますね。」
さつきは笑った。

そして、バッグから小さな五個の紙袋を取り出した。
「今日、皆さんとお話できてすごく楽しかったです。
これ、感謝の気持ちです。」
さつきは岡村と福井と劉と氷室、最後は紫原にその紙袋を渡した。

「それじゃ、練習頑張ってくださいね。
岡村さん、氷室さん、ご馳走様でした。」
さつきはまだ中身の入ってるソーダの紙コップとアイスクリームのカップを手に立ち上がる。

「「待って、アドレス交換しよう!」」
福井と氷室の声が重なった。
二人は一瞬だけ顔を見合わせて、それぞれが自分の携帯を取り出す。

さつきも笑顔で自分の携帯を取り出した。

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