進撃の巨人

□愛してるのはお前だけ
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リヴァイが初めてペトラを見たのは、ペトラたちの期が卒業試験を経て解散式を行った時だった。

「今期の訓練兵はなかなか筋がいいそうだ。
どんな兵士がいるのか見てくる」
とエルヴィンが言った時、気まぐれで一緒について行ったリヴァイは成績上位10名の中にいるペトラを見た。

その年の成績上位10名はペトラ以外は全員男だった。
この年のペトラを抜いた上位9名の男子は全員背が高かったので、ペトラの小柄さは際立っていた。

こんなのが卒業成績4位なのか…リヴァイはペトラを見て内心で驚いた。
そしてこうも思った。
『この女は憲兵団に入るために努力してきたんだろう』

だから新兵勧誘式の時に成績上位10名全員がエルヴィンの話を聞いてなお、震えたり青ざめたりしながらも調査兵団に入ることを決めた時、悪くないと思ったものだった。

卒業訓練上位10名が全員調査兵団に入団し、憲兵団のナイルがエルヴィンに嫌味を言ったというのが噂になったせいか、調査兵団にはペトラたちに興味を持っている人が多かった。

その筆頭がハンジで、ハンジはなんで成績上位10名全員が調査兵団を選んだのか、食堂でみんなが見てる前でペトラたちに聞いていた。
今も覚えている。
その質問に答えたのはペトラだった。

「首席のジニーが
『巨人は怖い。
死ぬのも怖い。
けど、自分の大事な人が死ぬのを見るのはもっと怖い。
だから俺は調査兵団に入る。』
ってね、言ったんです。
それを聞いてそうだなって思いました。
この世界に自分を犠牲にしても守りたい大切な人がいるんです。
だから調査兵団に入りました。
守れるものなんか本当に少しだけだけど、それでも大事な人のためだったら戦える、そう思ってます。
他のみんなもそうじゃないかと思います。」

そのジニーという首席の男を見つめ、ペトラは微かに微笑んでいた。
そしてジニーという首席の男はペトラの笑みを受け止めて赤くなりながらも頷いていた。

ハンジは初々しくて可愛いね、あの二人と言っていた。

お互いがお互いに好意を持っていることは、見ていて何となく分かった。
だけど、そんな感情は調査兵団の兵士には必要ない。
というよりそんな感情を持ってしまえば辛くなるだけなのに。
リヴァイは密かにそう思った。


リヴァイのその考えは的中して、ジニーという男は二度目の壁外遠征で巨人に食われた。
その壁外調査の後で調査兵団本部に戻った途端、ペトラは泣き喚いた。

みんなが驚く中、同期のオルオだけはペトラを殴って気絶させ、抱き上げて医務室へ連れて行った。
その後でリヴァイはペトラの取り乱した理由がジニーが死んだからだとハンジから聞かされた。

「あの子の目の前で食われたらしいよ。
それにしてもすごい精神力だよね…目の前で好きな男が食われたっていうのに、好きな男を食った巨人を冷静に討伐したっていうんだよ。
足の腱切って、目を潰してうなじをそいで。
壁内に戻るまで自分を保ったんだ、強い子だよ…。
あの子を私の班にいれようと思う。」
ハンジはそう言った。

「調査兵団をやめるだろ、あの女。」
リヴァイはそれを聞いて言っていた。
たまたま医務室の前を通りかかった時、オルオの前で泣いていたペトラを見た。
「なんで守りたいと思ったものを守れないの、失う事しかできないの?」

調査兵団になんかいたら失うものしかねぇんだよ、ペトラの泣き声を聞きながら、今までに得たものより失ったものの方が多かったリヴァイはそう思い、それに気が付いたらこの女はやめるな、と思ったからハンジにそう言った。


だけどペトラは残った。
ハンジがエルヴィンにペトラを部下にしたいと申し出て、エルヴィンはそれを了承し、ハンジの班へ所属が決まった時、ペトラは言ったそうだ。

「守れるものなんか本当に少しだけだけど、それでも大事な人のためだったら戦える、そう思っています、それが今はここにいない人でも。
彼の思いは私が生きてる限り、私の中にあるはずだから。
だから、私は戦えます。
よろしくお願いします、ハンジ分隊長。」

そうして次の壁外調査でハンジの班で活躍したペトラを、今度はリヴァイが引き抜いた。

この女を死なせたくない、そう思ったからだ。
自分の一番近くにいれば何が何でも巨人から守ってやれる、そうすればこの女を死なせる事はない、そう思った。

それにペトラは男性兵士に人気があるというような噂を耳にするようにもなってきて、覚悟を持って調査兵をしているペトラに異性関係でわずらわしい事が起らないように自分の部下にしようとも思った。
自分がそばにいれば、ペトラに言い寄るなんて馬鹿なまねをするやつもいないだろう、それがペトラを部下に指名した理由だった。

今思うと、その時から自分はペトラに恋をしていたのだと思う。
10以上も年下の、当時はまだ20才にもなっていなかったペトラにリヴァイは恋をしていたのだけれど、それを恋と気がつけなかった。
だからペトラがジニーを思うことも許せた。
ペトラの言う彼の思いがジニーのものだとしても、この世にいない人間が生きている人間に勝てるわけがないとも思った。

だけど、何より一番そばに置いていたはずのペトラがエレンと関係をもち、挙句104期にはジニーに似た男がいて、その男とペトラがすでに接触を持っていたなんて。

ペトラを抱いてから、ペトラに自分だけを見て欲しいという気持ちが抑え切れなくなってきている。
ペトラが死んだ人間を思うことすら、許せない。

明日朝一番で古城に『帰ろう』。
リヴァイはそう決めていた。
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