黒子のバスケ

□それでも君に恋してる
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「寮の門限に間に合うようにしないとまずいですよね。」

さつきは若松を見上げていた。
青峰より背の高い若松と視線を合わせて話すには見上げないといけない。

そして自分より30センチ以上低いさつきと話すには、若松は少しだけさつきに顔を近づけないといけない。
部活の後でシャワーを浴びる事が出来る選手と違い、さつきはシャワーを浴びたりしていないはずなのに、顔を近づけたさつきからふんわりと甘い香りが漂ってきて、若松は自然と顔を緩める。


主将になるまでは『青峰の世話係』位にしか思っていなかった桃井さつきのことを、主将になってからの若松は異性として意識するようになっていた。

彼女はただの青峰の世話係じゃなかった、その事に気が付いたからだ。
自分に対して細やかに気を使い、自分を立てて、サポートしてくれる。
それをさも当然の様にこなす。

さつきは本当にバスケが好きで、マネージャー業になんの見返りも求めてない。
それを知ったとき、若松はさつきに明確に恋心を抱いた。
桃井が彼女だったらいいなぁと思ったのだ。
だから恋愛経験のない若松なりにさつきにアプローチしている。

今日もさつきに
「部活の後、新しいバッシュを買いたいから一緒に選んでくれねーか。」
と言って、一緒にスポーツショップに行く事ができたのだ。

部活中はちょっとさつきと話していると、青峰が邪魔してくる。
だからわざわざ部活後に誘い出した。
どうやって青峰を帰したのかは分からないけど、いつもさつきに張り付いている青峰は今日はいなくて、若松はこの後で桃井と二人で飯でも食いに行こうと密かに誓っている。

「門限は九時だから間に合うだろ。
この後、飯でも食いに行くか。
お礼におごるぞ。」
「そんな、悪いですよ。
でもそれなら、スポーツショップの近くに行ってみたいなぁと思ってたお店があって。
自分でお金は払うから、一緒に行ってもらっていいですか?」

上目遣いで見上げられ、若松は頬を染め上げながら頷いていた。
やっぱりオレ、桃井が好きだ。
若松は改めて自覚しながらさつきと一緒にスポーツショップに入っていった。

自分の横にはさつきがいる。
まるで恋人同士の様に寄り添ってくれながら、自分のためにバッシュを選んでいる。

「若松さん、左右で少し足の大きさが違うじゃないですか?
だからこのバッシュがいいと思います。
履いた後で空気を送り込んでフィット感を高める機能付きなんですよ。」
さつきに言葉に若松はそのバッシュを試着してから買うことに決めた。
値段も予算より少し安いくらいだ。
若松がそのバッシュを手にして、レジに持っていく。
さつきはその横にちょこんとくっついていて、人から見たらカップルに見えるのかななんて若松が内心思った時だった。

「よぉ、若松さん。
それにさつき。」
でかくて黒くて目立つはずなのにいつ現れたかは分からないけれど、青峰が二人の後ろにいた。

「青峰?!」
「大ちゃん?!」
驚く二人に青峰は
「奇遇だな、オレもバッシュ買いに来た。」
と答える。

そして若松の手にあるバッシュを見て
「もう選んだんならさつき借りるぞ。
お前、バッシュ買いに行くならなんでいわねーんだよ。
オレもバッシュ欲しかったのに。」
とさつきの手をギュッと握る。

だけどさつきはその手を振り払う事もない。

若松はその光景に自分の心臓を掴まれた気分だった。
若松はまだ、さつきの手をこんな風に握れない。
だけど青峰はこうしてさつきの手を握り、さつきはそれをすんなりと受け入れる。

「もう、強引なんだから大ちゃん。
それじゃ若松さん、また明日!
あ、さっき行ってたお店は今度一緒に来ましょうね!」
さつきは青峰に手を繋がれてないほうの手を振って若松に笑いかける。
そして青峰と奥の方へと歩いていった。

後に残った若松はさつきに向って反射的に振ってた手を下ろし、その手を見てため息をついた。

「今はまだ、青峰には敵わないか…。
でもいつまでも今のままじゃいねーぞ。
幼馴染、上等だ。
それでもオレは桃井に恋をしてるんだからな。
お前なんかにゃ渡さねーよ。」
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