黒子のバスケ
□アテナの恋人
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自主練はするなと言ったのにやろうとする部員を全部の体育館を回って帰らせなければいけない緑間に
「第一と第二は私が確認してくるから、ミドリンはそれ以外の体育館を見てきて?
一人で全部見るの大変でしょ?」
と、さつきは笑って言った。
緑間がその言葉に従って他の体育館を見回って施錠を確認し、ついでに第二と第一の施錠を確認したら、もうすでにどちらの体育館も施錠がされていた。
それで部室に戻ったら、さつきだけが部室にいた。
「お疲れ様。
みんなもう帰ったよ。」
「オレを待っていたのか?」
「うん。
これ、今日の部誌ね。
ミドリンが確認したら、顧問の先生のところに持っていくから確認してくれるかな?」
さつきは緑間に部誌を差し出した。
緑間はそれを開く。
それにはいつもように綺麗な字で今日の活動内容が記されていた。
「いいんじゃないか。」
緑間はそれに目を通すとさつきに返した。
「それじゃ、職員室行ってくるね。
あと…間違ってたらごめんね。
ミドリン、なにか悩み事とかある?」
さつきの言葉に緑間はさつきを見た。
さつきは心配そうに緑間を見上げてる。
「なぜ、そう思ったのだよ?」
緑間の声が固いことに、さつきは気がついていない。
「シュートがね…リングに掠ってた。
20本中1本くらいの確立だったけど、いつもはミドリンのシュート、リングに掠りもしないから何かあったのかな…って。
あ、でも、別にそれがいけないって言ってるわけじゃないよ?
ただ、もし何かあって悩んでるなら、人に話すだけでも気が楽になるかなって…。
私の勘違いだったらごめんね。」
申し訳なさそうに自分を見上げる潤む瞳。
引き結ばれた唇は赤みを帯びて、艶めいている。
緑間を見上げる桃井は、美しい。
もし彼女が女神だったらアテナじゃなく、アフロディーテだと言った赤司の言葉は正しいかもしれない。
美の女神だからこそ、こんなに彼女はうつくしいのだろう。
だってオレは、こんなにうつくしいものを今までに見たことがない。
ずっと、彼女をアテナだと思っていた。
気高く、美しく、それでいて知略で自分達に勝利をもたらす女神。
だから、自分の想いを伝えることすらできなかった。
アテナは永遠の処女神だから、気高いままでいて欲しかった。
だけど、アテナには恋人がいた。
赤司征十郎という、恋人が。
いや、彼女は女神じゃない。
美の女神の加護を受けたただの生身の女だ。
なんで、赤司のものになる前にそのことに気が付かなかったのだろうか?
いや、今からでも遅くないかもしれない。
緑間の長い指がさつきの髪を掬い取った。
そのまま、その髪に口付ける。
「ミドリン?!
どうしたの?!」
「お前が好きだ。
赤司になど、渡したくはないのだよ。」
目を見開いたさつきの顎を付かんで上を向かせ、緑間はその唇に噛み付くように口付けた。
軽蔑されてもいい。
泣かせてもかまわない。
桃井をオレのものにしたい。
だって桃井は女神じゃない。
生身の女なんだから。
そのまま部室の机の上にさつきを押し倒す。
涙目で自分を見上げて、もがくさつきを押さえつけて緑間は笑った。
その笑みは状況にそぐわない、綺麗で幸せそうな笑みだった。
END