黒子のバスケ

Dearest
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着替えを終え、校舎を出て歩く緑間は、校門の所に数人の秀徳の制服を着ている男子が集まってるのを見て首を傾げていたが、すぐに走り出した。
男達の隙間から桃色の頭が見えたからだ。

「ねぇ、一緒に遊びに行こうよ。」

「嫌です。
というか、彼氏を待ってるんです。」

「だって君、随分前からここに立ってたよね?
俺ら野球部だから校庭から見えてたよ。
女の子こんなに長く待たす男なんか、ろくなもんじゃないって!」

自分が桐皇まで迎えに行くはずだったさつきが何で秀徳の校門にいるか分からないが、さつきは大分前からここで自分を待っていたらしい。

さつきの容姿は目立つ。
中学の頃から、ナンパはしょっちゅうだった。
だから迎えに行くといったのに。

「迎えに来てくれるって言った彼を、私が早く会いたくて勝手に待ってただけです。」

「こんな可愛い子の彼氏ってどんなよ?」
きっぱりと断られてもまださつきに未練がありそうな男達に緑間は声をかけた。

「オレですが。」
「?!
バスケ部の緑間?!」
「マジ?!
キセキの世代の…?!」

緑間を見た男達は顔色を変えると、
「ごめんねー」
とかなんとか、もごもごと言って去っていった。

「お前は何をしているのだよ?!
迎えに行くと言っただろう!
こうなるのが分かっていたから迎えに行くと言ったのに、なんでわざわざ来たのだよ?」

緑間はメガネを直すとさつきを睨む。
さつきは自分より30センチ以上も大きい男に睨まれているのに、笑っている。

「大ちゃんがダンク決めた時にゴール壊しちゃってね、練習ができなくて中止になったの。
それで早く会いたくて来ちゃった!」
さつきは緑間の腕に自分の腕を絡ませた。

「だからといって…」
なおも言い募る緑間だったが
「会いたかったの。
ミドリンは私に会いたくなかったの?」
とさつきに上目遣いで見られたらそれ以上は何も言えなかった。

「会いたくないわけがないだろう。」
「よかった!」
さつきが浮かべた満面の笑みに、緑間も微かに笑みを浮かべた。


「桐皇に行くことに決めたよ。
やっぱり、青峰くんを放っておけないから。
だけど、自分の彼女が幼馴染と同じ学校を選ぶなんて嫌だよね?
だから、振ってくれてもいいよ。」

さつきからそう言われたのは、中学三年生の11月中旬。
寒くなってテーピング以外に手袋も欠かせなくなってきた頃だった。

さつきが緑間が進学を決めた秀徳と、青峰が進学を決めた桐皇、どちらに行こうか迷っていたのは知っていた。

自分はさつきの恋人だけど、青峰はさつきの肉親のようなものだ。
恋人と肉親…どちらを選ぶか、究極の選択だっただろう。

そして彼女は肉親を選んだ。

潤んだ目でそれでも緑間をまっすぐに見つめるさつきは、緑間に振られることを覚悟していたのだと、今も緑間は思う。
そんな気は、緑間には全然なかったのに。

「お前はオレをもう好きではないのか?」
だからそう聞いた。

さつきの目からは溜まってた涙が零れて…でもさつきは首を振った。
「好きだよ。
ミドリン、大好き。
嫌いになんてなれるわけないよ、だってこんなに好きなんだもん。
日が経つごとに好きな気持ちが大きくなるの、それくらい大好きなんだもん。」

「なら、別れるという選択を選ぶことはないのだよ。
学校が離れるだけで気持ちも離れるような、そんな簡単な関係じゃないだろう、オレとお前の関係は。」

緑間の言葉にさつきは目を見開いたあと、ゆっくりと破顔して、緑間にきつく抱きついてきた後は声を上げて泣いていた。
そんなさつきの耳元に緑間は囁いた。

「オレも同じなのだよ。
お前のことを知るたび、どんどんお前を好きになっていくのだよ。
好きだ、お前が誰よりも好きだ。」


自分の腕に腕を絡めてる『恋人』を見やる。

自分は色々と変わったと思う。
秀徳に入って、黒子に負けて、チームメイトを信じるようになって、自分は変わった。

だけど、絶対的に変わらない想いがある。

「桃井。」
「なぁに?」
見上げるさつきの唇に背を縮めてキスを落としてから緑間は言った。

「愛してるのだよ。
だからずっとオレのそばにいて欲しいのだよ。
そしていつか、緑間さつきになってくれ。」

「うん。
っつか、私、そういう未来しか選ばないよ。」

そう答えたさつきの目から零れた涙はまるでダイヤモンドみたいに輝いていて、緑間はこの世にこんなに美しく、そして自分が愛しいと思えるものがあることを幸せだと思いながら、さつきの唇に深く深く口付けた。

END

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