黒子のバスケ
□最大限の愛情
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「うるせーブス!」
体育館に響いた声に全員が練習をする手を止めて声のする方を見た。
青峰の声だ。
その青峰がブスというのは一人しかいない。
青峰は女の子にもわりと横柄な態度をとるけど、それでも最低限の礼儀はわきまえている。
さつき以外の女子にブスなんて言わない。
それは裏を返せば、さつきにはそれだけ甘えているということなのだけれど。
ブス何ていっても、多少つらく当たっても、さつきだけは自分を見捨てたりしないでくれるという甘えがあるのだと言う事だ。
「ブスでいいもん。
でも足首の捻挫がよくなるまで、足に負担のかかる練習はだめだよ。」
さつきの方もなれているのか、青峰の暴言は流している。
「うるせーな、捻挫なんかしてねーっつーの!」
「動きが変だもん。
私に青峰くんの不調が分からないわけないじゃない。」
そういえば、たしかになんだか青峰の様子は変だった、何がと言われたら分からないけど…。
でもさつきがいうのだから、足首を捻挫しているのだろう。
赤司が二人に近づき、青峰に今日の練習は見学するように言おうとした時だった。
「うるせーな、いちいちいちいち!
本当にてめえはオレの保護者なのかよ?!
バーカ、バーカ、ブス、ブスっ!」
青峰が大声を上げる。
基本、青峰はアホ峰なので人を罵る際のボキャブラリーは少ない。
「こんな出来の悪い息子なんてほしくないよ!」
「あんだとこのブス!
バカ女!!
バカバカバカ、ブスブスブス!!」
ボキャブラリーが少ないからこそ繰り返されるバカとブスにさすがに赤司がさっさと青峰を止めようと早足になる。
いくら幼馴染でもあそこまで言われたら傷つくだろう、赤司だけではなく誰もがそう思った時だった。
「バカでもブスでも何でもいいよ!
だけど私が全然まったく傷つかないと思ってるの?!」
さつきが持っていたテーピングを青峰に投げつけると体育館を走って出て行ってしまった。
「いてーな、何すんだこのブス!」
テーピングが顔に直撃した青峰はさつきに向って叫ぶけど、さつきはもうすでに体育館を出て行ってしまっていた。
「大輝、もういい加減にしろ。
桃井は大輝を心配しているんだ。」
さすがに赤司が青峰を窘める。
「峰ちんはほんとバカだねー。」
頭ではさすがに言い過ぎたと分かってはいてもそれを認められない青峰の怒りを再燃させそうな言葉が体育館に響き、さすがの赤司も驚く。
のっそりといった感じで赤司と青峰の前に現れたのは紫原だった。
「ああんっ?!
バカってそれはオレのことか?!」
凄む青峰に顔色一つ変えず、紫原は頷いた。
「だってー、峰ちんがさっちんになってほしいのは保護者じゃなくて奥さんでしょー。」
「何いって…」
紫原の言葉に全員が唖然とする。
そして青峰が動揺するとこも始めてみた。
「ちがうのー?」
なのに紫原はまるで追求するかのように青峰に聞き返す。
「ちげーよ!」
「ふーん。
でも俺はさっちんに奥さんになって欲しーなー。
さっちんいいじゃん、可愛いし。
背も高いし。
峰ちんがさっちん好きなら仕方ないと思ってたけど、違うならオレがさっちん奥さんにするー。」
紫原はのっそりと体育館を出て行く。
「あいつは何を考えているのだよ!?」
その後姿に緑間が首をかしげている。
「敦は子供なんだよ。
だから単純なんだ。
桃井を好きだけど大輝が桃井を好きだと思っていたから我慢する。
だけど大輝が桃井を好きじゃないと言ったから、それじゃ我慢しない。
敦の思考は子供そのものだ。
だけど子供だからって侮れないよ、大輝。
子供は自分の欲望には忠実だからね。」
赤司の言葉に青峰は何も言えなかった。
体育館裏でしゃがみこんでいたさつきは、
「さっちーん、やっとみっけたー」
と急に声をかけられて、顔を上げた。
そして驚いた。
自分の至近距離に紫原の顔があったからだ。
「ムムムムムッくん!」
「んー何ー?」
さつきに名前を呼ばれて紫原は返事をする。
「どうしてここに?」
「えー、さっちんを探しに。」
紫原はへらっと笑う。
「そうなんだ、探しに来てくれてありがとう。」
紫原に笑いかけるさつきに紫原が言う。
「オレねー、さっちん好きだよー。
ポテチトップスと同じくらい、好きー。」
紫原は相変わらずへらへらと笑ってるけど、青峰にバカとかブスとか散々罵倒されていたさつきの心にその優しい言葉は染み入って、さつきはボロボロ泣いていた。
「ありがとう、ありがとうムッくん…」
ボロボロ泣いてるさつきの頭を撫でてから、紫原はぎゅっと抱きしめた。
「ほらー、泣き止んだらオレのポテチトップスあげるよー。
さっちん、だからもう泣かないのー。」
それが紫原の最大限の愛情表現だということを、さつきは知らない。
END