銀魂

□見廻組一日局長
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「申し訳ない、佐々木殿と今井殿。
この男、裏柳生のものです。」

九兵衛の言葉に異三郎が
「真選組の一日局長をやった時に倒したと聞いていますが?」
と九兵衛に聞く。

「あの時の男が裏柳生の頭目です。
そして、この男はその男の弟です。
実力は彼の方が上でしたが、弟ということで、頭目は兄の方が勤めていました。
兄の失脚によって自分に裏柳生、ひいては柳生流をもモノにするチャンスが回ってきたと思ったのでしょう。
今日を選んだのは、マスコミや見学者、見廻組の見ている前で僕に勝てば自分の実力を知らしめることが出来ると思ったから…と言った所でしょうか。」

九兵衛の言葉に男は笑った。
「その通りだ。
兄さんは俺より先に生まれたということだけで裏柳生を仕切っていた。
実力もないくせに。
でも、俺は兄さんとは違う。
お前も認めているように兄さんより実力もある。
その白い隊服、泥にまみれさせてやるよ。
そして柳生流は俺のモノにする。」
男はそう言うと刀を抜いた。

「佐々木殿、本当に申し訳ない。
見廻組の一日局長のはずが柳生家のお家騒動に巻き込んでしまって…。
ですが、僕の家のことですので、僕が決着をつけます。
これが終わったら、警邏の続きはちゃんとしますから。」

九兵衛の言葉に異三郎は無表情でいう。
「佐々木家も名門ですからね。
名門の家に生まれると跡継ぎは色々と苦労しますが、それを制することができてこその名家の跡取りです。
仮にあなたが死にそうになっても手出しは致しませんので、思う存分おやり下さい。
よく分かりましたね、皆さん。
手出しは無用です。
信女さん、刀にかけた手を下ろしなさい。」
その言葉に今井信女から立ち上ってた殺意が霧散し、信女は刀から手を離した。

おい、本当に手伝わない気かよ?!
総悟はそう思って顔から血の気が引く。

この間の頭目との戦い、九兵衛は苦戦していた。
何度も何度も助けに行こうと思った自分を抑えて見ていたのだ。
九兵衛に危険が及ぶなんて我慢できない。

総悟の手は刀にかかっていた。
九兵衛のプライドを守るのが彼氏の役目だ。
だけど、プライドのために命を失わせるわけにいかない。
総悟はいつでも飛び出せるように、少しづつ前に行きながら刀から手を離さないでいた。

一方の九兵衛は刀を抜いた。
「貴様さえ倒せば、もう裏柳生も柳生流を乗っ取ろうなんて思わないな?
貴様で柳生流の乗っ取りをたくらんでるものは最後だな?」
九兵衛は刀を男に突きつけてそう聞いた。

「剣の腕は俺が裏柳生で一番だ。
もし、仮にお前が俺に勝ったら、裏柳生の人間も柳生流を乗っ取ることを諦めるだろう。
俺に出来ない事が他のヤツにできないからな。
だけど、お前が俺に勝てると思うのか?」
男は嫌な笑みを浮かべていた。
そして言い加えた。

「俺がお前に勝ったら柳生流を俺によこし、てめえは俺と結婚しろ。
そうすりゃ名実共に、俺が柳生家の当主になる。
男として育てられて、片目もないなんていったって、てめえはいい女だからな。」
男は好色そうな笑みを浮かべて九兵衛を舐めるように見た。

「九たんがてめえなんかに負けるか!」

「引っ込め!」

「お前なんか九たんにやられちまえ!」
九兵衛のファンと思われる男たちが叫ぶ。

「分かった、お前のいう条件全て飲んでやる。
僕は負ける気がないからな!」
その言葉が合図になったかのように男が九兵衛に斬りかかる。

九兵衛はそれをすらりと避けた。
男は舌打ちをして九兵衛に再び斬りかかる。
それを防ぎ、自分の刀に相手の刀をすべらせて鍔ぜり合いに持ち込んで、いきなり足を振り上げ、男のわき腹を蹴った。

(あんな短いスカートでっ、あんなに足上げたらどうなると思ってるんでさァ!!)
総悟は内心でそう叫んでいた。

総悟の内心の叫びをよそに、男は鍔ぜり合いをしたままで自分に強烈な蹴りを喰らわせた九兵衛を睨みながらよろけた。
「てめえ!
ゲホゲホ…刀で…」

咳き込みながら言いかけた男は目の前に九兵衛がいないことに気が付いて青くなる。
九兵衛はすっとしゃがみこんだと思ったら、今度は男の膝裏に蹴りを喰らわせた。
男は刀を放り投げながらその場に倒れこむ。

九兵衛はすばやく左手でその刀を掴むと倒れた男の顔の横すれすれにその刀を突き立てた。

「なっ…」
右手の自分の刀はいつの間にか男の首元に突きつけられていた。

「お前の負けだ。」

「貴様、汚いぞ!
剣で…」

倒れた男が言いかけた言葉を九兵衛が遮った。

「ばかか、貴様。
戦いに汚いも綺麗もないんだ。
それに、確かに貴様の剣の腕はいいかもしれないが、剣を振るだけしかできない人間に名門柳生家が継げるものか。
どうする?
このまま刀を横に引けば頚動脈が切れてお前は出血多量で死ぬだろうが、そうするか?
それとも負けを認めて引き下がるか?
どうする?」

「九兵衛さんの勝ちですよ。
誰の目から見ても、あなたの勝利は明らかです。
ですからそこまでする必要もないでしょう。
もしあなたがまた柳生家や九兵衛さんに何かしようとしたら、その時は見廻組がお相手をしましょう。
我々はエリートによるエリートのための警察ですからね。」

刀を男に突きつけている九兵衛の腕を異三郎がそっと抑えた。

と思ったら、短い破裂音が響いた。

異三郎がいつの間にか銃を握っていた。
「佐々木殿っ…!」
「エリートに楯突くからにはいつでも命をなくす覚悟はできているのでしょう?
私はエリートですから撃ってはいけない人は撃ちませんが、エリートですから射殺しなければならない人のことは確実に射殺しますよ。」
異三郎の言葉に顔の横の地面を撃たれた男は真っ青になって震えながら何度も頷いた。

「佐々木殿、もうその辺にして警邏を続けましょう。」
異三郎の行動に九兵衛は毒気を抜かれたのか、そう言った。
「そうですね。」
異三郎は銃をしまうと何事もなかったかのように歩き出す。

「見廻組の副長補佐になればいいのに…」
信女の言葉に九兵衛は
「僕には僕の守るものがありますから。」
と笑みを浮かべた。

その笑顔はとても綺麗で総悟は一瞬だけ時が止まったように感じた。
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