銀魂

□俺らに愛を!
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坂田家の長女・九兵衛は朝食を作り終わった後、各部屋を回って兄弟を起こすのが毎朝の仕事だ。
だけどこの仕事が一日のうちで一番骨が折れる。

坂田家の長男で一応大黒柱ということになるだろう銀時はいつも寝ぼけて自分に抱きつくし、三男で弟の晋助も寝ぼけて自分を布団に引っ張り込もうとする。
四男の総悟と次女の神楽(双子)はとにかく寝起きが悪い。
その上、二人とも極度のシスコン。
姉が大好きなので、起きたら起きたで九兵衛に甘えてくる。

唯一の例外は次男の十四郎で、一回起こせば起きるし、自分の事は自分でしてくれる。
自分の事が終われば、九兵衛の手伝いもしてくれる。
九兵衛にとっては本当にありがたい存在だった。

そして九兵衛は今日もまず、一番先に次兄の十四郎の部屋にいく。
「ちい兄ちゃん起きて!
朝だよ!」
すっきりと片付いてる次兄の部屋に入ってカーテンを開け、ゆさぶると十四郎はもぞもぞと動いて起き上がった。
「おはよう、ちい兄ちゃん。
もうご飯できてるよ。」
「おはよ…いつもわりぃな。」
「それじゃ、お兄ちゃん起こしてくるから。」
「いいよ、兄貴は俺が起こしてくるからお前は晋助を起こして来い。」
「いいの?!」
「ああ。」
「ありがと!」
そう言って笑って自分の部屋を出て行った九兵衛の後姿を見て、十四郎はため息をつく。

自分と兄としか知らないけど、九兵衛は養子で本当は自分達と血が繋がっていない。

九兵衛はまだ両親が生きていた頃、父が働いていた病院に置き去りにされた赤ちゃんだった。
九兵衛の両親は男が欲しかったらしい。
それで女の子に九兵衛と名づけ、一度は育てることにしたらしいが、退院の日にやっぱり女の子はいらないと置き去りにして行った。

それを不憫に思った父が連れて帰ってきて、母も賛成し、養子にした。
ある日突然できた妹に、兄の銀時も自分もこの小さい妹を守ってやらなければと強く思った。

そしてその感情はいつしか男が女を愛する感情になっていたのだ。
十四郎は九兵衛を女としてみてる。
九兵衛は自分を兄としてしか見てないけど。
そもそも彼女は自分が養子だなんて知らないのだから。

だけど兄も九兵衛のことを女としてみてるんじゃないか、十四郎はそう思っている。
だからあまり兄と九兵衛を近づけたくない。

スェットの上下を着たまま、十四郎は自分の部屋の隣にある兄の部屋に入っていく。
「おい起きろ!
朝だ!」
十四郎はカーテンをあけた後、兄に軽く蹴りを入れる。
「うーん九兵衛、風邪引いたの、その声なに?
男みたいな声になってんじゃん。」
「早く起きろよ!
男みたいじゃなくて男だよ!
てめーは弟の声を忘れたのか!」
「はぁっ?!
なんでトシが俺を起こしに来てんの?!
うわー、朝から最悪…」
自分を起こしにきたのが弟だと気が付いて、銀時が布団からもぞもぞと起き上がる。
この男、いつでも寝る時は甚平を着ている。
「飯できてるって、早く用意しろよ!」

十四郎は銀時を軽く睨むと着替えのために自室に戻ろうとして
「ちょっと晋助っ!
寝ぼけてないで起きなさい!
ちょっと…どこ触ってるの?!」
という九兵衛の声に慌てて銀時の部屋とは反対の自分の隣にある、弟・晋助の部屋に飛び込んだ。

医大生のくせに勉強してる形跡のない弟の部屋のベッドから九兵衛の顔が見えている。
「晋助!!
てめ、毎朝毎朝どんな寝ぼけ方してやがる!」
十四郎はそういうと布団をひっぺがす。
晋助はダークグリーンのチノパンにカットソーという寝るには窮屈そうな格好のまま、ベッドで九兵衛のおなかに手を回して抱きついている。

「どんだけシスコンなんだ、てめーは!
九兵衛を離せ!
大学生にもなって寝ぼけて姉貴に抱きつくか、フツー?!」
九兵衛を救出していると銀時も晋助の部屋に顔を出した。

「九ちゃん、もう明日からこいつ起こさなくていいよ。
てめー、昨日朝飯くった後また寝て、大学いったの午後だっただろ?!」
「あ?!
昨日は午前は休講だったんだ、仕方ねェだろ。
九兵衛、腹へった。
メシ。」
「もうできてる。
ねぇ、みんな早く用意しなよ、遅刻するよ。
僕は総悟と神楽ちゃん起こしてくるから。」
「総悟は晋助が起こして来い。」
銀時が晋助に命令して晋助の部屋を出て行く。

「ちっ、銀時の野郎、めんどくせぇこと押し付けやがって。」
それでも晋助は立ち上がった。
それを見て九兵衛も十四郎も晋助の部屋を出て行く。

十四郎は自分の部屋で着替えながら、晋助は九兵衛が本当の姉じゃないと知っているんじゃないかと思っていた。
幼い頃から姉が大好きな晋助だったが、最近は九兵衛に触れることが増えた。
今朝もしっかりと九兵衛に抱きついていたし、あんなこと、昔はしなかった。
でも九兵衛すら知らないことを晋助がどうやって調べたんだろうか?

スーツに着替えながら十四郎は首を捻っていたら廊下がばたばたと騒がしくなる。

高校生の騒がしい双子コンビ、総悟と神楽が目覚めたらしい。
「九ちゃん、ワタシの髪結んでー。」
「九ちゃん、俺の髪とかしてー。」
「バカか、てめーら!
高校生にもなって髪くらい自分でとかせ、自分で結べ!」
晋助が怒鳴る声も聞こえる。

それはいつもと同じの、そしてこれからも続くはずの日常だった。
だから十四郎は九兵衛に自分の思いを告白する気なんてなかった。
それが変わってしまうことになるなんて、誰も思っていなかった。
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