銀魂

□花魁道中・伍
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総悟は始めて登楼した時と同じく、真選組の隊服を着ていた。

「今日はお仕事は?」
そう聞くと
「非番でィ。」
と総悟は答え、いきなり九兵衛の膝の上に頭を乗せて寝転んだ。
「沖田の旦那さん、どうしたでありんす?」
総悟の行動に驚いてる九兵衛に総悟が何を差し出した。
よく見ると耳かき棒だった。

「これ、俺専用の耳かきでィ。
俺に耳かきするときはこれを使いなせェ。
そんで、俺以外に使っちゃいけやせんぜィ。
これからは耳かきしてもらいたくなったらここに来やす。」
「耳かきって…そんな事のために登楼したんでありんすか?」
さすがに九兵衛も驚いてしまった。

「そんな事じゃねェ。
俺にとってアンタに耳かきしてもらうことは、そんな事じゃねェんでィ。
やっと見つけたんでィ、俺の居場所。
肩肘張らないでいられる俺の居場所。
それがアンタなんでィ。
だから俺にとってはそんな事じゃねェ。」

総悟はそういうと起き上がって九兵衛を抱きしめた。

自然と九兵衛の手は総悟の背中に回る。
自分もここでものすごい苦労をした。

柳生家は地方の名家だったから、幼い頃から色々な習い事をさせてもらえた。
だからここに売られてきた時にはすでにある程度の教養も芸事も身についていて、引込禿になって厳しく仕込まれた。
けれど遊郭で引込禿になるという事は将来の高級遊女候補ということで、周りからのやっかみなんかもあった。
そしてお登勢の稽古は厳しかったけど、慰めてくれる人は誰一人いなかった。

それでもいつかここをでて土方と再会したい、それだけを励みに必死で歯を食いしばって耐えてきたのだ。
そんな自分と総悟がなんとなく重なってしまう。

「よう頑張ってきたでありんす。
大変やったでしょう。
偉かったでありんす。」

だからあの当時、自分が誰かに一番言ってもらいたかった言葉を総悟に言った。
「本当にそう思うんですかィ?」
九兵衛を抱きしめてるんだか、抱きついてるんだか分からない状態で総悟は小さな声で九兵衛に聞いてきた。
「18才で真選組一番隊隊長なんて、誰より努力しなきゃなれないでありんしょう。
他の誰が言わなくても、わっちはそう思うでありんす。」
九兵衛は総悟の頭を優しく撫でた。

総悟はその手にホッとする。
姉がなくなってからは耳かきを誰かにしてもらうのも、こんな風に誰かに頭を撫でてもらうのも、 誰かに甘えるのも初めてだった。
自分の背中を撫でてくれる九兵衛からはふんわりと甘い香りがする。
その香りとぬくもりに安心して、そしてすごく幸せな気分になる。
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