銀魂

□局長の恋
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とりあえず、このままじゃ寒そうなので近藤は九兵衛の体に自分の上着をかけた。
初めてなんだと気が付いてからは自分のできる精一杯で丁寧にしたつもりだけど、そもそもそれは気の使いどころを間違えてることは近藤も分かってる。
今だって上着をかけただけなのに、九兵衛は怯えるように体を震わせた。
そういや今まですっかり失念してたけど、訴えられたら俺、婦女暴行罪で逮捕だよな。
真選組局長が婦女暴行罪で逮捕か…。
でも仕方ないよな、本当に婦女暴行だもん。
近藤は意を決して九兵衛に話しかける。
「あの、九ちゃん。
訴えるならそれでもいいです…。
あの、したことの重要性というか、あの、責任っていうか、その、そういうものはきちんと取りますんで…。」
でも、泣きながら九兵衛が言ったのは意外な言葉だった。
「何もなかったんだ。
何もなかった。
だから君もこのことは忘れてくれ。」
そう言ってまた声を押し殺して泣いてる九兵衛を見てると罪悪感は込み上げてくるけど、訴えないと言ってもらえたことにはホッとする。
最低なのはわかってるけど、やっぱり真選組局長が婦女暴行で捕まるのはまずい。
「あの、本当にすみませんでした…。」
心からの謝罪を述べて、近藤は九兵衛の背中を見つめることしか出来なかった。

やがて九兵衛はゆっくりと起き上がった。
近藤がかけた上着が滑り落ちて九兵衛の背中があらわになった。
細くて、小さな背中だった。
九兵衛はそのまま散らばってる道着を身につけ始める。
「あの…大丈夫?」
近藤の問いかけに九兵衛は黙って頷いて身支度を終えると
「帰る。」
と立ち上がろうとしたけど、
「いたっ!」
とその体は崩れ落ちそうになる。
慌てて近藤は九兵衛を支えた。
「触るなっ!!」
「いやでも…痛いんでしょ?
体、辛いんでしょ?
もう何もしないから、パトカーで送っていくよ。
いや、家まで送らせて下さい。」
九兵衛の顔を覗き込んで近藤は胸が痛んだ。
頬には涙のあとが残っていて、鼻の先と目は真っ赤だし、まぶたははれている。
「それなら頼む。」
九兵衛はやはり体が辛かったらしく、近藤の言葉にそれ以上は何も言わなかった。
九兵衛を抱き上げて、近藤は屯所の自室を出て行く。
局長が柳生の若様を抱きあげて屯所内を歩いていることに、すれ違う隊士たちは目を丸くしていたが、今の近藤にはそんな事を気にする余裕はなかった。
できるだけ九兵衛に負担をかけないように歩いて車庫まで行ってパトカーに九兵衛を乗せると自分も運転席に乗り込む。
エンジンをかけて柳生家に向かいながら近藤はあえて全然関係ない話を九兵衛にし続けた。
九兵衛はぽつぽつと相槌を打ってはくれるようになったけど、柳生家に入ってくその時ですら、近藤を見ようとはしなかった。
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