銀魂

□通学電車
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と、思っていたが、今日は違った。
駅のホームで本を読んでる彼女に、春雨高校の制服をきた男が話しかけていた。
春雨高校はこの辺でも有名な不良高校だ。
一方の恒道館女子は、一応お嬢様学校なんて呼ばれていて、頭もそれなりによくないと通えない。
いつもいつも同じ時間に同じ場所に立って本を読んでる彼女に自分以外の人が気がついていてもおかしくないのだ、総悟はこの時になってやっと気がついた。
彼女は首を振って断っているのだが、男の方はしつこい。
そして、周りの人間はトラブルに巻き込まれたくないのか、見てみぬふりを決め込んでいる。
総悟は中学時代は剣道部に所属していたし、ケンカだって負けない自信がある。
だから二人に近寄っていった。
「いいだろ、名前くらい教えてくれたって!」
「だから!
なんで知らない人に名前を教えなきゃならないんです?」
「これから仲良くなってけばいいじゃん!」
「こんなところでなれなれしく声をかけてくるような人と仲よくする気はありません!
付き合う人はよく選べ、と父から言われていますので。」
華奢だから勝手に儚げだと思っていたけど、彼女は決して儚いだけの女子ではなかったらしい。
声をかけてきた春雨高校の男は強面なのに全然怯む様子がない。
総悟はこのしつこい男をどう撃退しようかと考えながら近づいていく。
ケンカに負けない自信はある。
彼女の事も助けたいし、出来ればいいところを見せたい。
しかし、のちのち面倒くさい事になっても困る。
その時、彼女と総悟の目が合った。
その途端、彼女の顔がさっと赤く染まった。
なんだかその顔がすごく可愛らしくて、総悟はなんとしても彼女を助けよう、そう心に決めた。
男は彼女の視線が総悟に向いているのをみて、総悟を睨みつけてくる。
「おい、なんだ、てめーは?!」
そう言って総悟に凄む。
しかし、総悟が何か言うより早く、彼女が
「待ち合わせしていた友達です!
沖田くん、おはよう。」
と声をかけてきた。
え?
何で俺の名前知ってんの?!
脳内パニックを起こしてる総悟を睨みつけ、チッと舌打ちをして、男はどこかに歩いていった。
彼女は、小さなため息をつくと、顔を少し緩ませた。
そして、
「すみません、巻き込む形になっちゃって。」
と頭を下げてきた。
ちょっと低めの、けれども綺麗な声だった。
はきはきとしたしゃべり方に好感が持てる。
でも、今はそれどころじゃない。
なんで彼女は自分の名前を知っているんだろう、そのことで総悟の頭はいっぱいだった。
「名札。
武州高校は、襟元にネームプレートついてるでしょ?」
彼女はそう言って総悟の襟元を指差した。
「あ?!」
そういやそうだった。
毎日付け替えるのが面倒なのだが、一応、総悟は風紀委員をしているのでそういうことに気をつけないとうるさく言われるのだ。
だからきちんとネームプレートをつけるようにしている。
そのせいか。
脳内パニック終了。
でも今度は、いつも見つめていた女の子と至近距離で向かい合ってることに総悟の心臓がバクバクし始めていた。
「助けてくれようとしたんでしょう?
ありがとう。」
彼女は笑った。
時間が止まったような気がして、総悟は彼女の顔をただ見つめることしか出来なかった。
「柳生九兵衛です。
恒道館女子高校の一年です。」
彼女はそう言って総悟の顔をのぞきこむ。
「…武州高校の一年の沖田総悟。」
総悟はやっと自分を取り戻す。
「いつも同じ電車だったよね?」
九兵衛の言葉に総悟は
「ああ。
あんたもいつもこの電車ですねィ。」
と言う。
「うん。」
「いつも同じ時間に駅にいてすげぇなァと思ってやした。」
「沖田くんも、いつも同じ時間に来てるじゃないか。」
「だって、あんたがいるからねィ。」
総悟は目の前の九兵衛の顔がみるみるうちに赤くなったのをみて、自分が言った言葉の内容に気がついた。
「あっ…!」
慌ててる総悟の目の前に九兵衛が何かを差し出してきた。
「これ。
再来週、学園祭があるんです。
そのチケット。
もしよかったら、来てくれませんか?」
総悟は真っ赤になってる九兵衛の顔を見ながら、もしかして?!と思っていた。
もしかして、実は彼女も俺の事を…?!
真っ赤になって俯いてる彼女の手からチケットを受け取る。
恒道館女子は女子高だから、生徒以外が学園祭に入るためには在校生からチケットをもらわないとならない。
確か在校生一人に付き、二枚しか配られないはずのそのチケットを彼女は俺にくれた。
これは、期待してもいいのだろうか?
「……サンキュ。
絶対に行きまさァ。
よかったら、携帯の番号と、メルアド交換しやせんか?」
総悟がチケットを受け取ると、九兵衛は顔を上げて笑った。
「よかった。
断られたらどうしようかと思った。
いつチケット渡そうか、ずっと悩んでたんだ。」
その笑顔は総悟の心臓を鷲掴みにした。
……明日からは、もっともっと朝が楽しくなるだろう。
そう思いながら総悟も彼女に笑みを返すと携帯を取り出した。

END
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