銀魂

□桜姫
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それから三年がたった。
柳生家は九兵衛がいなくなったあと、一気に老け込んでしまった敏木斎と輿矩に変わり、四天王が仕切っている。
九兵衛がもう帰ってこないという現実をやっと理解したのか、輿矩は自分の姪っ子を東城と結婚させることにしたそうだ。
東城とその姪っ子の間に子が生まれれば、その子は柳生の血を引いていることになる、でも若の帰りを私は待っています、たまたま町であった東城がそう言って悲しげに微笑んでいたのが印象的だった。
妙の方はといえば、三年前から何も変わっていない。
相変わらずすまいるで働き、近藤のストーカーに悩まされている。
新八も相変わらず万事屋で働き、銀時も神楽も変わっていない。
たまに
「九兵衛は元気でやってるんだろうか?」
と話になるが、その度に妙は
「ええ、きっと元気でやっているわよ。」
と答えた。
いつ結びつけてるのか分からないが、九兵衛は確かに毎月15日にあの枝垂桜の枝に手紙を結び付けてくれていた。
自分は元気にやっていること、妙にも元気でいてほしいこと、そしてまだ彼が迎えにこないことを綺麗な字で九兵衛は綴ってくれている。
そして今月も、15日が来た。
妙はすまいるでの仕事を終えたあと、そのまま神社に向かった。
そこで妙は目を見張る。
枝垂桜の下に、桃色の地に枝垂桜の柄の着物をきた女性が立っていたからだ。
深夜の神社でそこだけ幻想的で、妙は枝垂桜の精が人の姿で降り立ったのかと思ってしまった。
でも、それが桜の精ではないと分かったのは、その人が振り返って笑顔で
「妙ちゃん。
久しぶりだね。」
と言ったからだった。
妙の目にみるみるうちに涙が溢れて零れ落ちる。
3年ぶりにみる、九兵衛の姿だった。
3年前よりはるかに綺麗に女らしくなり、そしてあの頃の凛々しい美しさは陰を潜め、変わりに儚げな美しさをたたえていた。
「九ちゃん!」
妙は九兵衛に向かって走っていくと、自分より小さく細い体に抱きついて声をあげて泣き出した。
その妙の背中を九兵衛は優しく叩く。
「妙ちゃんごめんね、心配かけて。」
その声に九兵衛が戻ってきてくれたのだと安堵してさらに妙は泣く。
その妙の安堵を壊したのは
「別れを惜しんでるところ悪いんだがな。
そろそろ時間だ。」
という男の声だった。
びっくりして顔を上げた妙の目は、派手な着物を着て左目に包帯を巻いたキセルから煙をくゆらせている男を捕らえた。
「あなただれ?」
妙の疑問に答えたのは九兵衛だった。
「やっと、晋助が迎えにきてくれたんだ。
僕は晋助と一緒に行く。
もう、二度とここに手紙を結び付けにくることもない。
だから、妙ちゃんに最後のお別れに来た。」
戻ってきたとばかり思っていた九兵衛の言葉に妙は唖然とする。
「妙ちゃんさようなら。
元気でね。
それとみんなに伝えてくれないか?
僕は幸せだって。
愛する人とずっと一緒にいることが出来て幸せだって。」
そういうと九兵衛は呆然としてる妙から離れ、その男の隣に行く。
男はかすかに口元を緩めて九兵衛の肩を抱いた。
「待たせたな。」
それは男の危なげな雰囲気からは想像もつかないような、とても優しい声だった。
「ううん。
それより迎えに来てくれてありがとう。」
妙のことなど目に入らないように男は九兵衛をきつく抱きしめ、九兵衛も男の背中に腕を回す。
本当に幸せそうな二人の様子をただ黙って妙は見つめていた。
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