ONE PIECE倉庫

□ENDLESS CHAIN Ver.海賊
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アラバスタを救い、ビビに笑顔を取り戻したのはクロコダイルの思惑を知るために犯罪結社に潜入したビビをアラバスタまで守りながら連れてきてくれた海賊達だということを俺は知っている。

だけどその海賊のうちの一人、海賊狩りのゾロと呼ばれる男とビビが恋仲だったなんて俺は知らなかった。

それを知ったのは、麦わら海賊団がアラバスタを発つと聞いて、せめて礼を言おうと思った時だった。

俺はビビを泣かせる所だった。
だけど、あいつらが居たからビビを泣かせずにすんだ。
ビビは笑顔を取り戻すことができた。

俺はビビが大事だった。
国も大事だった。
だから国が平和になり、ビビの笑顔を取り戻したのが俺じゃなくても、ビビが笑ってくれるならそれでよかった。
あの海賊達に感謝していた。
だからあの海賊達に礼を言いたかった。
だけどやつら、宮殿内をあちこち動き回ってるらしく、一人一人を探して礼を言うのも時間がかかった。

そして最後に残ったのが海賊狩りのゾロで。
そいつを探していたら、いつの間にかビビの部屋の前まできていた。
ビビはアラバスタのたった一人の王女だから、警護の関係で部屋は宮殿の一番奥にある。
そこに入れるのは限られた人だけだ。
そのビビの部屋のドアは少しだけ開いていて、だから俺はビビに海賊狩りのゾロがどこにいるか知らないか聞こうと思ってドアに近づいて足を止めた。
中からビビの声が聞こえてきたからだ。

「ブシドー、本当にありがとう。
あなたちにはいくら感謝しても足りない。
本当にありがとう。」

「気にすんな。
みんな、お前の笑顔が見たかっただけだ。
ただそれだけだ。」

宮殿内のビビの部屋に海賊が入るなんて…前代未聞だ。
だけど、それがこいつはもしかしてビビと…なんて俺に思わせるには充分だった。

「それで、これからどうするつもりなんだ?」

海賊狩りの声がする。

「私は、ブシドーを愛してる。
できるなら一緒に行きたい。
だけど、私はこの国も愛してる。
あなたたちが取り戻してくれたこの国を復興させて、今よりもっといい国にしたいの。」

「そうか。
俺も、世界一の剣豪になる夢を捨てることはできないように、お前もアラバスタを捨てることはできないんだな。」

「うん。
世界で一番、愛してるわブシドー。
だからあなたの夢が叶う事を、私はここからずっと祈ってる。
そしていつか、私よりいい人を見つけて幸せになってね。」

「ああ。
お前以上にいいやつなんかきっといねぇ。
だけどそこそこの女を見つけて幸せになるから安心しろ。
安心してお前はお前の国を守れ。
そして、俺よりいい男なんかそうはいねぇだろうから、そこそこの男を見つけて支えてもらって、子供生んで、いい女王様になれよ。
…そしてお前が誰と結婚しても、誰の子供を産んでも、俺が世界一の剣豪になった時には俺はここに来るから。
その時は、今度は仲間として俺と会ってくれ。」

「うん…!
だけどブシドーがここを出るまでは、仲間じゃなくて恋人でいていいよね?」

「当たり前だろ。」

聞こえてくる二人の会話に足が棒のようになって動かない。
だけど二人がベッドに倒れこむような音がして、その音で我に返って、慌ててその場を後にした。

会話から察するに二人は愛し合っていて。
だけど、お互いに捨てられないもののために別れる事を決めて。
お互いに自分じゃない誰かと相手が幸せになることを望んで。
だけど、それでも二人は愛し合ってるんだ。

この時、ようやく俺は理解した。
あの男に、海賊狩りにものすごい嫉妬している自分に気が付いて、理解した。
ビビの事は妹の様に思っていたけど、それは違かったということに。

妹だと思ってた。
妹の様に大事だと思っていた。
けど、違う。
俺は妹としてじゃない。
女としてビビを愛しているんだということに気が付いた。

だから、あの二人が愛し合ってることもショックだったし、これからあの二人がするだろう行為にもショックを受けていたし、だけど海賊狩りがここを出て行ったら二人の関係はそこで終わるという事実に深く安堵もしていた。

あれから5年の年月が経った。
俺はアラバスタ伝統の婚礼衣装に身を包んで、目の前のドアを開ける。

「リーダー、すごく似合ってるね。」
部屋に入ってきた俺を見て、同じくアラバスタ伝統の婚礼衣装に身を包んでいたビビがかすかに微笑む。

「ありがとう。
お前も綺麗だ。
これからはずっと、俺がお前を守っていく。
支えていく。
お前が永遠に愛し続けるのが海賊狩りでも俺は構わない。
お前が死ぬまでずっと、永遠に俺の隣にいてくれるのなら、俺はそれで構わない。
そうやって、一緒に生きていって、俺の子供産んでもらって、海賊狩りに対する愛情とは違う、だけど別の形での愛情をお前と築けていけたらそれでいい。
俺はそう思っている。
だから俺と一緒に、ずっとずっと一緒に歩いていこう。」

「どうもありがとう、リーダー。」

ビビは俺の言葉に涙をこぼしながら微笑んだ。

あの別れの日から、ビビは明るく振舞ってはいても、どこか元気がなさげだった。
俺はずっとビビのそばにいた。
ビビのそばで、あくまで兄貴として振舞った。
そしてビビが18になり、国民がそろそろ王女の結婚を期待し始めた時、俺はビビに言った。

「お前があの海賊狩りを愛しているのは知っている。
だけど、国のためにいずれ結婚をしなければならないだろう?
だったら俺と結婚しないか?
俺はお前がこれから先、一生海賊狩りを愛していても構わない。
それでも俺は、お前を支えていきたいと思っている。
だから、いずれしなければならない結婚なら、俺としよう。」

ビビは驚いていたけど、俺は兄貴としてじゃなく男としてビビを愛してること、だからビビを支えたいことと、守りたいことと、これからも続く果てしない道をビビと一緒に歩いていきたいこととを伝えた。
そしてビビは
「他の男の人を愛している、私みたいな女でもいいの?」
と泣きながら俺に問いかけたので、俺はそれでもいいと言った。

「その男の事も含めて、それでも俺はビビを愛している。」
と。

ビビは結婚を了承してくれて、ビビと俺の婚約が発表された。
それから三年。
俺は王家のしきたりだのなんだのを学び、王家の人間になる俺がなんの肩書きもないのではまずいということでイガラムとペルとチャカから剣を学び、名実共にアラバスタ王国護衛隊副官にふさわしいとコブラ王に判断されたので、今日、婚礼をあげることになった。

ビビが永遠にあの海賊狩りを愛していても、これからの俺とビビはそれとは別の『家族』という絆で結ばれて生きていく。
それはまるで終わりのない鎖のように。


俺は目の前で泣きながら微笑む、この世で一番美しい花嫁のまぶたにそっと口付けた。


END

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