ONE PIECE倉庫
□お前が闇にとけないように
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トレーニングをするために甲板にでたゾロはそこでいつものように長い髪を風になびかせて海を見つめてるビビの姿に気がついて顔を顰めた。
ゾロはいつも夜中にトレーニングをしている。
あんまり人にトレーニングをしてる姿を見られたくはないので、見張り台の死角になるような位置でしている。
しかし、ここ最近、その死角に先客がいるのだ。
それがビビだった。
何をするでもなく、ただ海をみていて、ゾロの存在にはまったく気がついていない。
だから仕方なく、ゾロは別の場所でトレーニングをしているのだが、ふと気がついたのだ。
『こいつ、一体いつ寝てやがるんだろうか?』
ゾロは昼でも眠くなったら寝るし、夜でも眠くなったら寝る。
そして起きてる間はトレーニングしてる。
ただそれだけだ。
だけどビビは違う。
昼はカルーの毛の手入れをしたり、ナミのみかんの木の世話をしたり、ウソップやチョッパー、サンジの手伝いをしたり、島に上陸した時はルフィの冒険に一緒に付き合っていたりする。
そして夜は自分がトレーニングを始めるより先に海を見つめていて、自分がトレーニングを終える頃にもまだ海を見つめている。
夜の海なんか闇に溶けていて、見ていても全然面白くないだろう。
なのに彼女はこの闇に、一体何を見つめているのだろう。
このままじゃ、ビビも闇に一緒にとけてしまいそうだ。
そう思ったら、急に怖くなった。
「おい、ビビ。
眠れねぇのか。」
だからゾロは、思い切ってビビの背中に声をかけた。
何度も何度も海を見つめる彼女を見ていたが、声をかけたのは今夜が初めてだった。
でも、気になって仕方なかったのだ。
日毎、夜毎に彼女が気になって仕方なくなる。
夜の海を見つめ続けている彼女の背中も、昼間の明るい笑顔でクルーの手伝いをしてる彼女も、気になって仕方ない。
でも声をかけたのに彼女は振り返らなかった。
ゾロは訝しげに顔を顰めてビビに近づいていく。
「こっちにこないで、ブシドー!」
ふいにビビの厳しい声が飛んできて、ゾロは一瞬だけ足を止めた。
そしてさっきよりも大股でビビのもとに歩いていき、その細い肩に手をかけて、無理やり振り向かせた。
その顔をみて、胸がつまるとともに、やっぱりとも思う。
ビビは泣いていた。
昼間は屈託なく笑い、涙なんか流しそうもないビビだけど。
髪の色と同じ、空と海のように大らかで明るいビビだけど。
それは誰にも弱さを見せないようにしてただけの事で、夜、誰も見ていないところで、泣いていたのだ。
なんとなく、そんな気がしてたから放って置けなくなっていた。
まだ14の時に国のために犯罪結社に潜入してエージェントにまでなって、目の前で大事な人を失って。
それでも血が出るほど唇を噛み締めて泣かなかった女。
リトルガーデンではルフィの冒険に自ら一緒に行くと言い出し、ろう人形にされそうになった時には、自分も戦うと言い切った、とても一国の王女とは思えない女。
だけど、本当は泣きたいのを、ずっとずっと我慢してただけだったのだろう。
こうして夜に一人で泣いて、昼間明るく振舞っていたんだろう。
一人で泣いて欲しくはない。
今は、自分が一緒に戦ってやれるんだ。
「お前は一人じゃねぇ。
だから一人で泣くな。」
自分にはそれくらいしか言えないけれど、それでもビビの涙は、見たくない。
だから必ず、アラバスタを救ってビビの本当の笑顔を取り戻してみせる。
ゾロは自分自身にそう固く誓って、彼女が闇に一緒にとけないように、ビビを強く、強く抱きしめた。
END