animal augury .

□1話
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ずっと昔に幼なじみや
年上の子、年下の子達と
遊んでたらしい。
でも私はそれすらも記憶にない。
これは仕方のないことだって
正直私自身も諦めている。

だって私は記憶を
失っている…から。
中学生の入学式、
親は忙しい、という理由で
入学式に出られなかった。
忙しいのは分かっていたけど
子供の入学式くらいは
来てほしかった、と
家を飛び出してしまった。
もう辺りは暗くて
人もだんだんと自宅へと
入っていく。そして、
私もそろそろ帰ろうとして
立ち上がった時だ。
後ろから急にブレーキが
きかなくなったトラックが
私の方へ、突っ込んできた。
物凄いスピードだったから
お医者さんは助からないかも
って言ってたらしい。
でも、私は幸い頭に大きな傷
を負っただけだとら、
そう思っていた。
病室に戻ると…
お母さんとお父さん、
そして幼なじみの架がいた。
今はもう思い出せたんだけど
最初はお母さんとお父さんすら
誰なのかわからなかった。
分かったのは幼なじみの
久遠 架だけ。
そう、私は頭を打った衝撃で
記憶の一部を失っていた。
怖くて仕方なかった。
大切な思い出も全て、
無のように消えてしまったから。
でもそんな時、架だけは
いつも私に優しくしてくれていた。
だから私は立ち直れたんだと思う。

そして今日。
今日は転校の日だ。
銀河学園。そこにはいくつかの
学園に別れているところ。
6種類の学園がある中、
一つだけ学園から離れた所があった。
光坂学園。
普通の学園とは大きいが
少し離れた場所と
理事長の年齢の問題で
人気がない、そのため
光坂学園には女子がいなかった。
でも私は今日、ここに転校する。
不安もあるけど…
架がいるから大丈夫だと
自分に言い聞かせていた。
理由…。それは理事長に
初めて会った時であった。
高校の先生に奨められ、
なんとなくそこに行ってみた。
理事長室に入ると、
いかにも怖そうな仏頂面を
しているおじさん、がいる訳でも
なく、ぐーたらと寝ている
幼い子がいた。
私が足を踏み入れると
足元にあった細い糸に気付かず
躓いてしまう。
「きゃっ…」
こけてしまう寸前に後ろから
手を引っ張られた。
ぐいっと引っ張られると
よろめいて尻餅をついてしまった。
「いったたたた…」
そう言っていると後ろの人も
倒れている事に気づく。
「ってぇ…」
ハッとすると私はすぐに
立ち上がって振り返る。
そこには焦げ茶色をした
真っ直ぐで綺麗な眼をしている
男の人だ。
思わず、見とれてしまう。
「お前なぁ!しっかり前見…て…。」
私に怒りはじめたかと思うと、
目をわずかに見開いている。
「お…前、……琉奈……、か?」
真剣な眼差し…。
あれ…、どうして私の名前を…?
「あ、あの…、どうして
私の名前を…?」
男の人はハッとすると
少し戸惑いを見せる。
「あ、いや…。その、理事長から
話は聞いていた。」
そう言うと、男の人は
足元の糸を軽やかに避け、
幼く見える子の傍まで寄る。
「おい、魁。緋山が来てるぞ。」
ポンと頭を叩いてみるが、
起きる気配が全くない。
「…また仕事サボりやがって。」
仕事?…理事長の子供かな?
そう考えていると、
今まで寝ていた子がむくりと
起き出した。
「んー………。ふぁあ…。」
まるで小さい子供のように
目をゴシゴシとこすって
眠気を飛ばそうとする。
少し間があいた後に
ようやく私達に気付いた。
「あー…、凛…と、緋山さん?」
「は、はい!」
いきなり呼ばれたために
声が上ずってしまった。
「緊張しなくてもいいよ。
架から話は聞いてる。
僕が理事長の二階堂 魁です。
理事長と生徒っていう
職業だけどよろしくね。」
理事長はニニコッと笑って
くれたけど、私は生徒が
理事長をやっている事に
驚きを隠せずに口をポカンと
開けてしまっていた。
「…むっ!今、生徒なのに
理事長?って思ったよね?」
思った事を見通されたように
言われてしまう。
「う…、その…。生徒なのに
理事長をやっててすごいな、と…」
ごまかすための口実じゃない。
本当にそう思ったからだ。
それに子供っぽいと思っていたけど
良く顔を見ると少し大人っぽい
顔立ちをしている。
「そっか、ありがとう。
じゃあクラスに行こうか。
架も待ってるよ。」
そう言って、私に優しく
微笑みかけてくれる。
それに思わずドキッとしてしまう
私がいる。
…そういえば、あの人の名前…。
チラッと男の人の方を見ると
バッチリ目があってしまった。
「あぁ、俺の名前か。
俺は凛、五十嵐 凛だ。
これでも生徒会長に任命されている。」
私の思っていることに
察したのか名前だけ名乗ると
手をヒラヒラさせ、
理事長室を出ていく。
私はペコッとお礼して、
理事長に着いていく。
無言で歩いていると、
見覚えのある姿を目にした。
「あ、架だ!」
架も私達に気付いて
駆け寄ってくる。
「琉奈、それと魁。遅いぞ
もうホームルームの終りかけだ。」
「ごめんごめん、寝ちゃってた。」
軽く謝ると、理事長は私達
2人の前に立つ。
「さて、久遠 架、緋山 琉奈。
今日から君達は光坂学園に
正式に入学します。
まずは転校の理由を改めて
聞きます。まず、久遠。」
私は少し戸惑った。
さっきまでの理事長とは違う
オーラが出ていた。
「はい、俺は琉奈が唯一
覚えていてくれた幼なじみとして
また、保護者の変わりに
着いてきました。それと、
光坂学園には前々から興味が
あったので。」
架が言い終わると、架が肘で
次はお前だぞ。という
合図をしてくる
「あ、えと…はい。私は親からの
独立と親に苦労をさせないためです。」
でも本当の理由は二つある。
一つは親に苦労させないためと、
もう一つは"光坂学園"という
名が聞き覚えがあったからだ。
もしかしたら記憶が戻るかも、
そう思ったから転校してきた。
「うん、よし!じゃあ入ろうか!
ホームルームが終わった後に
この学園について説明するから
理事長室に来て。じゃあ開けるよ」
ドキドキするなぁ…
「大丈夫だ、俺がいるだろ?」
小声で架が言うと、がらっと
ドアが開いた。
まず理事長が入り、架が
入っていく。そして私も入った。
「お?…魁か。お!転校生も
一緒だな! おーい!皆ー!!
転校生を紹介するぞー。
お前ら良かったなぁー!
この学園初めての女子だぞー
仲良くするように!
じゃあ、自己紹介よろしくな」
恐らく担任の先生は私達に
自己紹介を求めてくる。
「久遠 架です。
初めての人もいれば、
久しぶりの人もいます。
どうぞ、よろしく!」
「おー!よろしく!」
「よろしくなー!」
などとクラスメイトの声が
聞こえる。
次は私の番だ。緊張する…。
「あ、えっと…。
緋山 琉奈です!
記憶を一部失っていたり
学園初めての女子ですが、
仲良くしてください!」
ペコッと私はお辞儀をした。
パチパチと拍手が聞こえて
架と同じように、
よろしくなとか仲良くしてな
とか同じ反応をしてくれた。
正直、私はビックリした。
こんなにもすぐに私の事を
受け入れてくれるとは
思っていなかったから。
「よーし!次はお前らだ!
全員、自己紹介していけー!」
先生は、そう言うと椅子に座る。
すると1番前に座っていた人が
立ち上がる。
「……大神 牙…よろしく」
大神君…、聞き覚えがある
何か懐かしい…。
そして次々と自己紹介していく。「日向 桐です!よろしくなっ」
「如月 海斗だ。
よく、"かいと"って読まれるが
本当は"みと"と読む。」
「にゃはははっ!
転校生、よろしくだぞー!
俺は橘 玲央だーっ!」
この4人の名前には
とても懐かしくて聞き覚えがある
名前だった気がする。
何か思い出せそうなんだけど
モヤモヤと何かが引っかかって
思い出せない。
最後に言った橘君が
思い出したように笑う。
「あー、そだ!忘れてた!
ちゅーそんも自己紹介しろーっ!」
橘君が先生を指差した。
「こら!人を指差すな!ったく…
俺は担任の中林 飛龍だ!
よろしくな、久遠、緋山。」
中林飛龍…。これも
聞き覚えがある気がする。
「よぉーし!じゃあ席につけよー。
緋山は大神の横な、そんで
大神の後ろが久遠だ。
教科書とかは見せてやれよ。
分かったな?大神、日向。」
中林先生が指してくれた席にへと
移動する。
「…えー、野郎に見せんのかよ。
琉奈ちゃんなら大歓迎なのに…」
日向君の方は話してくれたけど
大神君は何も言わなかった。
私は大神君と日向君の方を
向いて礼をした。
「よ、よろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくねー。」
日向君はニコッと笑ってくれた。
でも大神君はぷいっとそっぽを
向いて、窓の外をぼんやりと見ている。
…私、嫌われてるのかな…。
少しだけ落ち込んでいると
架が傍によってくる。
「琉奈、魁の所に行くぞ。」
架は私の頭をポンと優しく叩いて
いつものように微笑んだ。
「うん!」
自分では良く分からないけど
なぜか嬉しくなり、
弾んだ声で返事をした。
立ち上がり、架と一緒に
理事長室まで行った。
架がドアをノックするも、
返事は来ない。
寝ているかもしれないから、
という理由で無断で
開けようとするも鍵がかかっていた。
「……いないのかな?」
薄々気付いていたけど、
多分…理事長はいない。
諦めて帰ろうとしていると
理事長室に歩いてくる人影が見えた。
理事長かと思うと、期待したが
無論違った。
「ん?どうしたんだ、お前等?」
現れたのは何食わぬ顔で
山積みになっている書類を
抱えている五十嵐先輩であった。
「あ、五十嵐先輩!って…
何してるんですか?その書類…」
「あぁ、これは魁が溜め込んだ
仕事の書類だ。その様子だとここ
にはいないみたいだな。」
私達の顔色を見て、
理事長室にいない、という事を
とらえたようだ。
横にいた架が苦笑いをしている。
「どこにいるか知りませんか?」
架が苦笑している笑顔で
五十嵐先輩に聞いている。
五十嵐先輩はポケットから鍵をだすと
理事長室のドアを開ける。
ひとまず、大量にあった書類を
机の上に置くと、
笑顔でこちらに駆け寄ってくる。
「魁は1-Bだ。どうせだから
案内してやるよ」
そう言うなり、五十嵐先輩は
そそくさと歩きだした。
私と架は追いかけるように
小走りで五十嵐先輩の所まで行く。
「そういえば…五十嵐先輩は
生徒会に所属されてるんですよね?」
朝、理事長室で会った事を
思い出し聞いてみた。
五十嵐先輩の顔を伺うと
少し驚いたような顔をしている。
「あ、あぁ 一応
生徒会長に任命されている」
でも、すぐにいつもの
冷静な表情を見せてくれる。
「へぇ…楽しいですか?」
「琉奈、質問しすぎだぞ」
ずっと話を聞いていた架が
話に入ってきた。
…確かに、質問しすぎかな…?
反省して顔を俯いてしまう。
「いや、いいんだ。
答えられる質問なら全部、
答えてやるよ」
五十嵐先輩はポンと私の頭を撫で、
優しい笑顔を見せてくれた
嬉しさについつい私も笑顔になる。
「あ、1-Bの教室見つけたよ」
ちょっと不機嫌そうに
架は1-Bを指指した。
「お、本当だな。
じゃあ、俺は行くわ、またな。」
そして逆方向に歩きだした
五十嵐先輩。
じっと後ろ姿を眺めていると
急に勢いよく振り返った。
「生徒会、楽しいぞー!
また遊びにこいよー!」
私の質問に答えるのを
忘れていたのに気付いたのか
五十嵐先輩が大声で叫びながら
手を大きく振る。
私も答えるように手を振ると
また、五十嵐先輩は歩いて行く。

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