その他

□黒バス
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Lucky Day







ああ、なんだろう。不思議と体が軽い。
きっと、浮かれているからだ。自分のことみたいにワクワクする。
なんたって今日は俺にとってもあいつにとっても特別な日。
ああ、まだかな、まだかな。
早く会いたい。

チャリアカーを自宅前に止め、俺はチャリに乗ったままいつも通りあいつを待つ。
チラリと目をやると玄関のドアが開いた。
今日も時間ピッタリだ。


「…………」
「真ちゃんおはよー!」


玄関から出てきた緑間はそのまま動かない。
思った通り、目を見開いて固まっている。
ははっ、驚いて声も出ないってか?


「ビックリした?」
「な、なんなのだよコレは…」


俺が声をかけてやると動き出した緑間は、ずり落ちそうになっていたスポーツバックを肩にかけ直す。
珍しいなあ。こんなに焦ってる真ちゃん。そんなにビックリしたのかよ?
ああ、でも、迷惑だったら嫌だなぁ。


「いやあ、たまにはキレイにしてやらないとなって思ってよー」
「……確かに。こいつにはいつも世話になっているからな」


上手く俺に丸め込まれちゃってるけど、そんなのは本心の一部にしか過ぎないんだぜ、真ちゃん。
まったく。そう言っていつものようにリアカーに乗ろうとする緑間を尻目に、俺は首を傾げる。
アレ?真ちゃん。ピッカピカとまではいかなくとも多少キレイになったチャリアカーには気づいたのに。俺の手元にあるコレには気づいてくれないの?それとも興味ゼロ?



「あー…ねえ真ちゃん」
「なんだ」
「あのさ、俺が今持っての、なんだか分かるかな」
「高尾、お前はオレを馬鹿にしているのか」
「いやいや!してないしてない!」
「……ハァ。お前が持っているのは薔薇だろう」
「そうそう!正解!さっすが真ちゃん」
「…オレは誰のモノでもないのだよ」



相変わらず冷てえ〜。もっとデレてくれてもいいのに。
まあ、薔薇には気がついてたらしいけど。どうせ「朝から薔薇を持っている男子高校生なんて奇妙なモノ以外の何物でもない」ってとこだろ。どうせ。
誰のための花だと思ってんだよ…ったく。マイペースなエース様のせいで俺が昨日から練っていた作戦も台なしだ。



「真ちゃん、今日のラッキーアイテム薔薇だろ?」
「ああ。登校途中に花屋へ寄ろうと思っていたが…」
「ジャジャーン!俺が用意しましたー!」
「……だからといってこれは多過ぎなのだよ」
「まあまあ、いいじゃん?持ち歩けるようカゴのにしたんだからさ」



それに一本より束になってた方が運気上がるって。
そう付け足して俺はカゴ入りの薔薇を手渡し、前へと向き直る。
どうやらエース様はまだ不満を抱いてらっしゃるようだ。
これも大抵、日常に高確率で起こりうる事態だが、さすがに悪化してこいつがマジで怒りでもしたら…。
せっかくの大事な日だ。そんな状態で一日を過ごして欲しくない。
それに実はこの薔薇もはじめは買おうか買うまいか迷ったもんだ。
我が儘なエース様が駄々をこねるかも知れなかったしな。
ってのが正直なところ、俺の本音。


「そんじゃ、行きますよー」


また今日も俺はチャリを漕ぐ。
後ろに女の子を乗せているわけではない。爽やかな風を浴びて坂を下っていくわけでもない。
子どもに指を差されたけどそんなのどうってことない。



「……高尾」
「んー?」
「……………」
「真ちゃん?」



珍しく緑間から声をかけてきたと思ったら黙りこくったまんま。
もしやと思い後ろに目だけやると、案の定。そいつは照れていた。
何か言おうとしたんだけど口に出す、まではいかなかったってとこかな。
大丈夫だよ真ちゃん。俺にはちゃんとお前の言いたいこと、分かってるから。



「なあ真ちゃん」
「……なんなのだよ」
「それ、読んでくれた?」
「………ああ」
「そっか。なら、いいや!」
「は…?」



俺はそれだけ言って一人で満足した。だって確認したら本人の口からちゃんと読んだって言ってくれたし。
ポーカーフェイス気取ってるように見えるけど今、実はニヤケが止まんねえの。ホント、祝った甲斐があったよな。



「真ちゃん!好きだぜ!」
「なっ…!どうしてお前はいつもそう軽々しく…」
「軽くなんかねーよ。そこに書いてあるとおり、俺は真ちゃんのこと本気で好きだよ」
「ッ……」
「まあ、ほら言うじゃん?『世界中の誰よりも愛してます』って」
「そ、それとこれとは違うのだよ」



今日はじめて会ったときみたいに…いや、それ以上に焦ってる。
それはこいつだけの話じゃなくて俺にも当てはまるわけで。ガラにもなく自ら冗談を言って茶化す辺り、俺もまだまだなのだよ。



「でもさー、真ちゃん俺のこと好きだろ」
「な、何を馬鹿なことを言っているのだよ高尾…!!」
「またまた〜照れんなって。つか俺もちょっと自分で言っといてなんだけど、恥ずいなこれ」
「お前まで照れてどうするのだよ…!」
「お、真ちゃんいま照れてたの認めたな〜!」
「うるさい黙れ茶化すなッ!!!」



ああ、こんな何気ないやりとりにも俺はスゲェ幸せを感じるんだ。
こんなくだらない毎日をずっとお前と過ごせたら…そうなったらいいなって。
そう思うんだよ、真ちゃん。



「なあ、真ちゃん」
「今度はなんだ…」
「高校卒業したらさ、プロポーズさせてよ」
「…それもまた冗談か?」
「…ううん。本気」
「そうか…」



ぶっきらぼうだったその返事が心なしか優しく聞こえたのは俺の気のせいだろうか。
いや、きっと気のせいなんかじゃない。
ああもうっ、これだからウチのエース様は…!!!

ニヤケが止まらない。顔が緩み放題だ。
すれ違う子どもたちに指を差されたって全然、気にならないんだよ。
さて、俺は引き続き目的地の我が高へ向けてチャリを漕ぐ。
繋がっているのはリアカー。そこに乗っているのは秀徳のエースであり我が儘な、俺の大好きな大好きな、真ちゃんだ。









END
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