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□第3話 べ、別にお前のためじゃないんだからな!
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第三話
『べ、別にお前のためじゃないんだからな!』











長いようで短い夏休みが明けいよいよ学校生活の再開だ。
穏やかな風が流れる住宅路をゆったりとした足取りで歩く。
曲がり角を曲がったら食パンをくわえた女の子とぶつかってしまったり、憧れの先輩におはようと後ろから声をかけられたり。
あったらいいなとは思うけれどそんなこと起こるはずがない。
なぜならオレは今、遅刻をしているからである。


「誰もいるわけないよなぁ」


夏休み明け初登校で遅刻とはさすがに自分を殴りたい気分だ。
塔子に目覚まし時計を壊されてからオレの朝は携帯のタイマーで始まっていた。だが、昨日の夜寝る前にしっかりとセットをしたのだ。そしてその通りの時刻にタイマーが鳴り響いたのだが、その後はきっとオレが自分で止めたのであろう。
結果、眠気には勝てないということだ。
こうなれば仕方がない。過ぎ去ってしまったことを今さら後悔して何になる。
だがあまりにも遅いと説教をくらいそうなのでオレはなるべく早足で学校への道を急いだ。





なぜ走ってではなくあえての早足だったのかは言わないで置くが、学校に着いたオレは忍びの如く素早い動きで先生の目を欺き無事、始業式に間に合うことが出来たのである。
ふうとため息をつき息を整えていると後ろから声を掛けられた。まさかここでさっきのくだらない妄想が現実に…!?と思い一瞬花を咲かせたがそんなことあるわけがない。
なぜならオレの後ろの席に座っているのは松野空介、通称マックス。猫みたいな奴だ。
そんなこいつは何やら今日も楽しそう。


「ねえ真一さ、ホントは遅刻だよね」
「…うっ」


実に痛い所をついてくる。こいつはいつもド直球だ。


「だからなんだよ悪いか」
「うっわ、開き直った」


あからさまなリアクションをとったマックスは、何事もなかったかのように窓の外を眺める。
担任の話が終盤に近づいていることから、移動がもうすぐだということが分かった。
さて、つまらない式の始まりだ。





体育館に全校生徒が集まったのを確認すると教頭が教壇で始まりの挨拶をする。一応、否定しておくがダジャレのつもりで言ったのではない。
その後は校歌斉唱に校長の無駄に長い話、とオレにとってはどうでもいいことが行われていた。
きっと全校生徒の半分、いやほとんどが早く終わってくれと願っていたことだろう。
こうして実につまらない式を終えたオレは教室で大きなため息をつく。


「いや〜またしても長かったね、校長の話」
「オレぜんっぜん、話聞いてなかった」
「校長先生かわいそー」


心にもないことを言いやがって。むしろお前にそんなことを言われてる方がよっぽどかわいそうだ。


「ねぇそれよりさ、今日ヒマ?」
「ヒマだけど…」
「じゃあちょっと付き合ってよ」





やって来たのはここら辺では有名なケーキ屋。よくクラスの女子が話していたっけ。
ついて来たのは良いもののなぜか店の前には行列が出来ている。しかも並んでいるのは女性ばかりではないか。
一体こんな所へ来て何をするというのだろう。


「おいマックス、こんなとこ来て何するんだよ」
「見れば分かるじゃん、並ぶんだよ」


うん、よし決めた。


「オレちょっと用事思い出したじゃあなマックス」
「はいはい帰らせないよー」


マックスは強い。こういう場合に無駄な強さを発揮する。
見事引き止められたオレはしぶしぶこの女性だらけの行列に親友と、しかも男のマックスと並んだ。


「妹にケーキ頼まれててね、さすがの僕も一人じゃちょっとあれだったからさ」


つまり、恥ずかしかったということか。
珍しいこともあるものだ。
なんのためらいもなく女の子向けのファンシーショップに入って行くマックスが、人気ケーキ屋の行列には一人で並べないと。オレはこいつの基準がわからない。
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