眠らぬ街のシンデレラ
□海岸線の赤いライン*遼一
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「皐月さん」
「やっと来たね。名無しさんさんも待ってますよ。あの部屋用意しとくかい?」
「ああ、じゃあお言葉に甘えて。」
名無しさんが待っている。
ああ…早く抱きしめてやりたい。早くキスしてやりたい。もう…喰ってやりたい。
そんな邪な思いを抱いて
VIPルームの扉を開けると、そこに待っていたのは…
名無しさんと、名無しさんを取り囲んでトランプをしている…野郎どもの姿だった。
自分のことをけなげに待っているという遼一の頭の中の名無しさんの姿がもろに崩れ去る。
「あ、廣瀬さんおつかれさまです」
「名無しさんちゃんさてはババもってるでしょー」
「えっ…!」
「お前かよ…めんどくせーなー」
(ったく、面倒くさいのはどっちだよ…)
名無しさんはやたらとここの連中に絡まれる。
というよりこの連中はわざとやっているようにしか思えない。
悠月はやたら名無しさんの肩を抱くし、未来はスキンシップが何かと多い。
千早は千早で名無しさんがいるときに限って、シャワー浴びてたという理由で半裸で登場することが多い。
(…これはおしおきが必要だな)
基本的に、名無しさんにはどうすることもできないので、このおしおきというのは名無しさんにとって理不尽なものであるのだが、
本人もまんざらではないようなので気にしないでおこう。
「おーいお前らじゃま。トランプはあっちでやりなさい。そして俺の嫁と遊びたければ俺の許可を得てからにしなさいと言っただろ?」
「えー今いいトコだったんだよ?遼くん。」
「仕方ねーなー。オレ、あんなに独占欲丸出しの遼一、初めて見たわ。」
「はいはい。じゃあ名無しさんは借りるからな。」
そういって俺は名無しさんの手を引き、VIPルームを出る。
(いつみても細い腕だな…体だって華奢だし。これは俺のモンだ。
誰にも渡したくないし、見せたくもねえ。
ああ…監禁してぇ…)
「な、なに見てるんですか!」
遼一の視線に気づき、赤い顔をして睨む名無しさんの顔が可愛くて、Sである遼一はもっといじめたくなる。
「お前…さいきん太った?」
「なっ」
「こないだ抱き上げたときさあ…」
そのときのことを思い出して名無しさんの顔がもっと赤くなる。
「お前重くて落とすかと思ったわ。
今日は皐月さんに部屋借りたし…あの夜の続き…する?」
「り、遼一さんの意地悪!」
「ハハッ…冗談だよ。お前軽すぎ。」
「…」
「でも、あの夜の続きするってのは冗談じゃないから安心しなさい。」
「……じゃあもっと優しくしてください。」
ああ、この名無しさんの表情…たまらなく好きだ。
遼一はそう思った。
こんなカオをするから監禁したくなるんだ。
さらに、いつ監禁されるかわからない状況にある名無しさんは、
そんな遼一の想いも知るはずもなく…
自分を監禁の危機に追い込むような言葉を次々に口にする。
「遼一さんとなら…かまわないです。」
「そう思えるのは遼一さんだけで…」
「やっぱり私遼一さんのこと好きなんだなーって最近思うんです。」
「お前…」
遼一は自然と顔が赤くなるのが自分でも分かった。
(ああ…やられた。
俺がコイツをいじめるはずだったのに…。
名無しさんには敵わないな…。)
(皐月さんより、未来より手ごわいのは
名無しさん、お前だよ…。)
(それに最近思う。海岸線の赤の主人公ゆかりは、幸せになるんだってな。
ホントはそんなつもりじゃなかったんだけど…こいつに影響されてんな…俺。)
用意された部屋の扉を開けると同時に、
遼一は、この強敵を一生かけて手なずけてやろう。そう固く誓ったのだった。
そしてその部屋の扉が朝まで開くことはなかった。