Lost Kingdam -1- 亡国の騎士
□【Prologue.『落日の陽光』】
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─ラナス暦205年紺龍の月28日
─ウォールウィンド王国南部ガルナ渓谷
「サー・ナルビス」
そう呼ばれた青年騎士は後を振り返った。そこにはこの渓谷を抜けて隣国へ向かう王立騎士団近衛騎士100名余の姿がある。その先に自分を呼んだのだろう真紅の鎧を身にまとった騎士を目に留めた。
彼の名はナルビス。ナルビス=エルシオル=テラーと言い、ウォールウィンド王国の王立騎士団筆頭近衛騎士である。
そのナルビスは今憂鬱の中にいた。その憂鬱をさらに助長させるかの如く、彼の背中に馳せられた大剣の重みが彼を地へと引っ張る。
「なんだい?サー・リオン」
ナルビスは自身の憂鬱を包み隠すかのように真紅の鎧を身にまとう彼女に言葉を返した。
「まだ気に入らないのか?」
彼女、王立近衛騎士リオン=ヘルバーグはそんなナルビスの心を見透かすようにそう彼に告げた。
ナルビスはその言葉に対する返答に迷った。彼はここに自分はいるべきではないと思っていたのだから。
今、彼らの故郷、国都リアガルは戦火の真っ只中にあった。彼が忠義を誓うウォールウィンド王国は大陸中部に位置する。東はベルファーシュ共和国と南はラクティス共和国と国境を接し、特に南部のラクティス共和国とは友好関係にあり、軍事同盟を結んでいる。たびたび東国のベルファーシュ共和国と勃発する武力衝突にはラクティスとの共同戦線を張ることが多い。