哀願〜あの時あなたさえ来なければ〜

□棘の道
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夏美は、守の母が持ってきたリンゴを剥くために包丁を洗いに行ったのを確認して、守のベットに腰を降ろして守を見つめた。

『あたし、やっぱり守が好き。』

そう言うときょとんとしている守にそっと唇を重ね、微笑んでから

『あたしは仁美の替わりじゃない。あたしはあたし。だから正直に思いを伝えたかったの。』

守は何が起こったのか、まるでファーストキスした直後のように固まって動けないでいた。

『だから、毎日守のとこに来るの。』

そう言うと、悪戯っぽい笑みを浮かべて、夏美は病室を出ていった。

廊下で母と二言三言交わして夏美は帰っていった。

『ホント、夏美ちゃんは明るくていい子ねぇ。守にはもったいないわ。うん。』

部屋に戻るなり母が呟いた。

『どこがだよ。まだガキっぽいだけじゃんか。』

守は反論したが、

『でも守、顔が真っ赤。夏美ちゃんだったら守の彼女には出来すぎね。』

『な、何バカなこと言ってんだよ。つまんねえこと言うなよ、お袋。』

守はガバッと布団を被って横を向いた。

『照れ屋なとこは父さん譲りね。』

母は嬉しそうにそう言うとリンゴの皮を剥き始めた。
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