哀願〜あの時あなたさえ来なければ〜
□蛇の道
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追われるように街を抜け出した仁美の家族は、北陸のある温泉街に来ていた。
とりあえずパチンコ屋の住み込みとして生活する場所を確保し、父と母、そして仁美の3人はパチンコ屋で働き始めた。
こうなる予兆は仁美には全くなかった。
ある日突然母親から父の会社が危なく、しかもその原因を父が作ったと聞かされ、あっという間に仁美の置かれている立場は変わった。
仁美の父親は真面目に働いていたが、会社の専務の指示に従って会社の資金をやりくりしていたが、どうもその指示が脱税絡みのもので、そのやりくりの相手が暴力団関係と繋がっていたらしいのだ。
仁美の父親は正直に全てを話たが、専務は裏切り、全て父親1人が勝手にやったことにされ、数億円単位の損失まで生ませてしまったことにされたのだった。
どうにも身動きがとれなくなった父親は心中も考えたが、いつか見返せる日が来ると信じて夜逃げを決めたのだった。
仁美の家族はパチンコ屋や旅館の住み込みしながら転々と流浪の生活をしていた。
やがて1年が過ぎ、3軒目の住み込み旅館で家族が働いている頃、仁美の父親が勤めていた会社が倒産し、併せて巨額の脱税をしていたことが新聞の社会面に小さく報じられていた。
父親はこの記事をみて、自分の無罪を証明するために、元の同僚のところへ連絡を取ったが、状況は逆に父親の資金のやりくりによって暴力団にお金が流れ、資金繰りが悪化して倒産に追い込まれたとの評判になっているということだった。
しかも、悪いことに名前が挙がった暴力団が逆上して、血眼になって父親を捜しているとのこと。
仁美の家族は更に追い詰められた状況で金沢をあとにして北海道へ移り住んだ。