哀願〜あの時あなたさえ来なければ〜
□棘の道
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守と仁美が別れて1年が過ぎた。
守は仁美のことをずっと引きずっていた。
部活は続けているものの、時折もの悲しげな表情を浮かべることも少なくなかった。
夏美はそんな守をみるのが辛かったが、自分が仁美の代わりにはなれないと感じ、積極的に守と接することを避けていた。
しかし、守がサッカー冬の選手権の県大会予選で左足を複雑骨折して入院すると、夏美は毎日のように守の病院へ通い始める。
『夏美ちゃん、悪いわねぇ、いつもお見舞いにきてくれて。守なんか見舞いに来る女の子、夏美ちゃんだけよ。』
守の母が夏美に声をかける。
『あっ、いいんですよ。私、暇ですから。えへへ。』
夏美は舌を出しながら照れるように頭を掻いた。
『お前、部活あんだろうよ。来年インターハイ出るんだろ?』
守が面倒くさそうに呟く。
『大丈夫、大丈夫、あたしは少しくらい練習減らした方がちょうどいいのよ、誰かさんみたいに試合で骨折なんかしないから。』
夏美がおどけて笑う。
『お前なぁ、顔は可愛いけど言うことキツいと誰も付き合ってくれねぇぞ。もうちょっと可愛くなるとかさぁ…。』
『残念でした。あたし、これでもモテるから。誰かさんみたいにずーっと落ち込んでる根暗くんとは違いますう〜。』
『こんにゃろ』
『あはは、元気あるじゃん。』
『うっせぇ』
久々に守は腹の底から笑った気がした。