哀願〜あの時あなたさえ来なければ〜

□棘の道
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夏美はその後、毎日欠かさず守を見舞いにきた。

守はどう対応していいのかわからずに、つっけんどんな対応ばかり繰り返していた。

『あんたもう少し優しくしてあげないと、夏美ちゃんに逃げられちゃうわよ。』

『バカなこと言ってんじゃねえよ。』

『ハイハイ、おばさんは邪魔ですからね。』

母はそう言うと病室を出て行った。病室の入口には夏美が立っていた。

『お母さんと喧嘩でもしたの?』

『そんなんじゃないよ。』

『ふう〜ん。』

夏美は守のベットの横までくると、ベットに両肘をつけて嬉しそうに守の顔を覗きこみながら、他愛もない話を続けていた。

そんな毎日の繰り返しの中、姉の美夏が久しぶりに実家に戻ってきたついでに守の病院に顔を出した。

『久しぶり、姉ちゃん。』

『情けないわよね、我が弟は。試合で骨折して、彼女に毎日見舞いにきて貰って、いいご身分ですこと。』

相変わらず美夏は守に容赦がない。

美夏はこの春短大を卒業してとある実業団の陸上部に所属していた。

全国的には無名だが、高校時代は3年連続インターハイにも出場している。

夏美に言わせると美夏は憧れらしい。

弟からすれば、ただの厳しい姉でしかないのだが…。

『夏美は彼女なんかじゃねぇよ。』

『あれ?だって昨日、夏美ちゃんに逢ったら「守とキスしました」って言ってたよ。』

『げっ、な、何バラしてんだあいつ』

『え〜っ、キスしたのホントなのぉ〜

『あっ、いや、あの、その…』

『夏美ちゃん、守なんかのどこに惚れたんだろ?こんな出来の悪い根暗くんなのに。』

『う、うるせえよ、姉ちゃん。』

『だけど、夏美ちゃん、陸上辞めてまで守のとこ見舞いにくるなんて、よっぽど本気なのね。明日雪が降るかも。』

『えっ?陸上辞めた?』

『あれ?守知らなかったの?あっ、あたしマズいこと言っちゃったかな?』

急に美夏はしおらしくなって病室を出ていった。

『何であいつが陸上辞めるんだよ。』

守は無性に夏美に対して腹が立っていた。
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