TIGER&BUNNY

□歓迎会 兎虎
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「オジサン、営業、行きますよ。」

営業部の仮眠室で寝っ転がっていた俺に、冷たい声が降りかかる。


「バニー、ちょっとは息抜きも必要だぜ?」

昨日の昼下がり、喫茶店で決めたあだ名で呼び合う。

…といっても、バニーは前から俺をオジサンと呼んでいたけど。

「息抜きならちゃんとしてますよ。ほら、行きますよ。」

今日もしぶしぶ後ろをついていく俺。

今日も手を振る女性社員に、ぽっこりお腹のお偉いさん。

会社から出て、ふたりきりにならないと、バニーは外面をキープしたままだ。

会社を出るまで待って、俺は口を開く。

「さっき息抜きっていったけどよ、バニーちゃんの息抜きってなんなんだ?」

まさかキャバクラとかではあるまい。

「一人になります。」

「え?」

返ってきた予想だにしなかった答えに、思わず聞きかえす。

「だから、一人でお酒を飲んだり、お風呂に入ったり、ゆっくりします。」

…なんて寂しいやつなんだ。

俺は例えバニーが兎じゃなかったとしたって、そんなに一人でいちゃあ寂しくて死んじまうと思った。

「友達とか、いねーの?」

会社にはいないみたいだけど。

「いりません。」

…うわー…。
俺だったら絶対無理だなぁ…。

「じゃあさ、俺が友達に…」

「結構です。」

ピシャリと心を閉ざされてしまった気がした。

昨日はお母さんの話が聞けたのに。

「じゃあさ、今日、飲みに行こう!」

歓迎会をしよう、と続けると、今更?と言いながら、眉をひそめる。

「俺、一人じゃ息抜き出来ねえんだよ。だから、付き合えっ。」

しばらく眉をひそめていたが、小さくため息をついて、

「いいですよ。」

としぶしぶ了解してくれた。

よし、これでバニーの友達に一歩近づいた!

俺は心の中で小さく拳を握った。


「「ありがとうございました。」」


今日もバニーの見た目が主婦にうけ、契約をとることができた。

俺だけんときは、電球替えたりとか、犬の散歩とか頼まれてたからなぁ…。

さすがバニーちゃん。

会社に戻って荷物をまとめると、バニーと行く店へ予約をとる。

なんだか彼は人ごみが嫌そうだから、個室にしてもらうことにしたのだ。

知らない人とでも飲む俺には、おそらく一生分かることができないであろう。

なんだか初めてのデートみたいだな、とか思いながら、バニーとお偉いさんの話が終わるのを待つ。

毎日飲みに誘われているようだ。

「オジサン、終わりましたよ。」

今日は早く諦めてくれました、と満足気に話す。

お偉いさんも可哀想だなぁ。
裏ではこんなこと思われてんだぜ?

「ところでオジサン、どこへ連れて行ってくれるんですか?」

しばらく歩いたところで、バニーが言う。

「あぁ、ここだ。」

ちょうど到着したところだったので、目の前ののれんを指差す。

「"うしぞら"?」

ダイナミックに書かれた"牛空"の文字が目印だ。

「俺の知り合いの店なんだけ どよ、いい和食料理屋なんだ。雰囲気もいい感じだろ?」

俺はそう言いながら店内へ。

アントニオとキースが板前姿でいらっしゃい、と迎えてくれた。



「ほら、バニー。何食うよ?」

個室に入り、腰を下ろす。

「何でもいいです。」

あまり日本食は食べたことないらしい。

「んー、じゃあ…これとこれと…。」

適当に注文したあと、俺達は先に乾杯をした。

本当はカラッポの胃に酒ってあんまり良くないらしいんだけどね。

「っくはぁ〜!!やっぱ今日一日頑張ったかいがあったって思えるよなー、この瞬間!」

俺がジョッキを置くと

「オジサン…今すっごくオジサンって感じでしたよ。」

バニーが静かにグラスを置いた。

まず、日本食屋にきてシャンパンっていうのが無いだろう、バニー…。

「いいんだ、俺はオジサンだから(笑)ほら、バニーもやってみろよ。」

絶対すっきりするから、と無理矢理勧めてみる。

「え…いいですよ、僕は。」

そんな品のないことはしません、と言い張るバニー。

「どーせ俺の前だけなんだからいいだろー。」

なんだか酔っ払いが絡んでるみたいな俺。

そうこうしてるうちに料理がきて、ひとまず仕切りなおし。

「ほら、バニー。かんぱーいっ!」

カチンッと、グラスとジョッキがぶつかる。

「っぷはーっ!うまいっ!」

俺が刺身に手を伸ばそうとしたとき。

「…っぷ、はぁーっ…う、うまいっ!」

俺のジョッキを片手にバニーが俺の真似をした。

「おっ、バニー。やっぱそう飲むほうが美味いだろ?」

随分とぎこちなかったけれども。

バニーはジョッキを置いて首をひねり、

「不思議とおいしく感じるものですね…。」

とつぶやいた。

酔いもあってか、バニーはどれを食べてもおいしいと言い続け、二杯目からはビールを頼むようになり。

俺もつられてたくさん飲んでしまった。

 数時間後

「オジサン、オジサンっ!」

バニーが俺を呼ぶ声がする。
でも、体が重くて動かない。

もともと酒に強い体質ではないし、すきっ腹に飲んだし、なにより、年だ。

「もー…これだから人と飲むのは嫌なんですよ。後片付けが面倒で。」

片付けって…。
こいつ人をなんだと思ってるんだ。

「仕方ないから家まで送ります。明日ここから出社されても僕が困るんで。」

隣に並ぶ同僚として、と付け加えて、バニーはアントニオに俺の家の場所を聞き、俺をタクシーに乗せた。

ここで、俺の意識は朝まで途絶えることになる。
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