■ピーチボーイ![2巻]
□参拾六「おむすびころりんっ!」
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旅道中 参拾六ノ巻
「おむすびころりんっ!」
―――――――――――
僕と千宵は、気を失って倒れた八彩をあの眞那の小屋へと運んでいった。
「…大丈夫。まだ息はある。
でも、早く毒を抜かないとこのままじゃ―…。」
八彩を横に寝かせ安静にさせる。
八彩は息はしている。
けど、呼吸が乱れていてとても危険な状態だった。
そんな時である。
「…んー。朝か…?」
佐々海の小さな声が聞こえてきたのである。
僕達がそちらに目をやると―…。
「「うおおっ!?」」
僕と佐々海の悲鳴が重なる。
なんと、佐々海は壁に頭だけめり込んだ状態だったのだ。
そうだ…。
そういえば、酒に酔って千宵に絡んできた佐々海を千宵がブッ飛ばしてああなったんだっけ…。
僕がそう思い返していると、佐々海はスポンッ!という音をたてめり込んでいた壁から抜け出した。
反動でゴロゴロゴロッ!と、まるで僕が石につまづいて盛大に転んだ時のように、そりゃあ盛大に転がっていく。
ゴンッ!
「うごぉっ!」
向かいの壁にぶつかり、やっと転がる体を停止させる佐々海。
「もう!犬ッコロっ!こんな時に何童心に返ったみたいに呑気に遊んでんのよっ!?」
千宵はすかさず佐々海に突っ込みを入れた。
―…いや、千宵がブッ飛ばしたからああなったんだけど―…。
ま、そんな事より!
「佐々海!大変だよっ!八彩さんが毒で倒れた!」
僕は声を大にして叫ぶ。
「毒…?
一体、私が眠っている間に何が…。」
状況を理解できていない佐々海は眉をひそめる。
あーーっ!もう!この酔っ払いめっ!!
僕は心中でそう叫ぶも、今までに起こった出来事を彼に一から十まで全て話すのであった。
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「なんと…。
あの眞那というおなごが鬼の手下だったと…!?
あ、いや、男ですか…。
そして、八彩は死闘の末、眞那を撃退まで追い込んだが、毒が回り倒れたと…。」
今まであった様々な出来事を聞いて、佐々海の表情は一気に険しいものとなる。
僕達が話を進めている間も、八彩の状態は刻々と悪化していく。
「これ、八彩さんに刺さった毒の吹き矢と恐らく同じ毒が塗ってあるであろう毒針…。何か手掛かりにならないかな…?」
僕は不安な表情を滲ませ、そっと毒針を佐々海に差し出す。
佐々海はそれを受けとると、針の先端を手で扇ぎ匂いを嗅いだ。
「…これは。
忍者や暗殺者がよく使う毒矢に塗られる毒の一種ですね。
毒が体に入った直後の致死率は高くありませんが、放置しておく程にじわじわと体に回り致死率が高まる手の毒です。
…確か、この毒に効く野草が一種類あった筈ですが、こんな冬の雪山に果たして自生しているだろうか…。」
佐々海はそう深刻な表情で述べると、腕を組んだ。
佐々海は名門武士の家系の出。戦いに関する知識を多方面持ち合わせている。
その為、毒に関する知識も豊富なのだろう。
それに犬のおとぎ人である彼は、鼻がよく利く。
毒の種類を嗅ぎ分ける事など造作もない事だろう。
けれど、その佐々海が言う野草…。
冬の雪山にそんなもの…。
ううん…!諦めちゃ駄目!希望を持つんだ…。
八彩さんを絶対に救うんだ…!!
「佐々海!その野草の特徴はっ!?」
僕は意を決すと、直ぐに立ち上がり佐々海に問う。
「淡い紫色の小さな花をつける“蒼天下草”という野草です。」
「分かった。今すぐ取って来る…!!
佐々海は八彩さんを見てて!!」
僕はそう言い残すと、きびすを返し直ぐに小屋から外へと向かう。
「あたしも行くっ!!」
駆け出す僕の後に、千宵は続いて駆け出して行った。