■ピーチボーイ![2巻]
□参拾五「涼やかなる鳥達の闘い!」
1ページ/6ページ
旅道中 参拾五ノ巻
「涼やかなる鳥達の闘い!」
―――――――――――
ガゴゴゴゴ…!
この一帯を覆う鉄の刺の天井「鉄紬(てつつむぎ)」が依然、地上に向かって降下する。
「駄目だっ!あっちもこっちも何処にも逃げ道がないっ!」
「嫌よーっ!あんなのに潰されて死ぬなんてーっ!!」
僕と千宵は必死に叫ぶだけしか出来ずにいた。
何てったって!この壮大な仕掛け罠っ!!
恐らく、この罠「鉄紬」はただの罠ではない…。
妖術だろうか…?いや、違う。この罠全体から鬼の気のようなものを感じる…。
鬼から何かしらの力を授かったのだろう、この眞那という鬼の手下は…。
って、そんな事冷静に考えている場合じゃないっ!!
一体どうすればこの罠を回避できるっ!?或いは仕掛けを停められるんだっ!?
僕達はキョロキョロと辺りを見渡すが、地上には罠を回避出来るような場所は勿論ない。仕掛けの基もない。
とすると、やはりこの罠を停めるには、罠の天辺に立つ眞那自体をどうにかしなくてはいけない…。
けど、あそこまでどうやって辿り着けるっ…!?
大人の姿に変身した千宵だったら、そのずば抜けた跳躍であそこまでひとっ飛び出来てただろうが、今は力を使いきり少女の姿に戻ってしまっている…。
僕はどうだ…?神力を使う…?
そうだ…。鬼の影響を強く受けているだろう眞那に神力は効果覿面な筈…!!
うん、それしかない!!
僕はそう判断するや否や、神力を呼び出すべく体全身に気を溜め、力を込める。
ポゥ…。
だが―…。
「およよ?そうはさせませんよ?」
ジャラッ。シュッ!
「…!?」
鉄紬の天辺に佇む眞那は、ニッコリと最上級の笑みを浮かべると、直ぐに鎖鎌の先端をこちらに投げ放ってきた。
僕はそれを難なく避けたが―…、
ジャラッ!
瞬時に鎖の部分が複数に分裂し、僕の足を根こそぎ絡めとる。
「…う、わっ!」
僕は鎖に足を取られ、たちまち雪上に転げた。
「神力は使わせません。
あれ、浴びるとすっごく辛いみたいですから。およよ。」
眞那はそう言うと鎖を手繰り寄せる。
ジャラン、ジャラン。
ズザザザザッという音を立て、僕は眞那の操る鎖で自由を奪われてしまった。
動かせるのは両手だけだ。
「…しまった!動けない…っ!」
僕はギリリと歯を食い縛る。
千宵の罠・トラバサミを外して千宵の身も解放してあげなくちゃいけないのに…!このままじゃ二人とも…!
…そうだ。
―…佐々海から習った剣術―…。試してみようか…。
でも、失敗すれば刀が―…。ううん、やってみるしかない…!
僕は日頃から毎日少しずつ佐々海から刀の稽古を受けていた。
佐々海の剣術指南はとても分かりやすくて、いつも僕に少しずつ自信と技術を与えてくれていたんだ。
なのに、神力を自由に扱えるようになってからはずっと神力の力に頼りきってばかりだった。
そうだ…。
今こそ仲間との絆の力を使う時!
佐々海から受け継いだこの技を…!!
そうと決まれば!
僕は刀を地面に突き刺し、眞那の手繰り寄せに抗う。
…むむぅ…!体が引きちぎれそうだ…っ!!でも…!!
“刀の力を信じるのです。”
そうだ…。
刀も僕達と同じく生きている。いや、生かすも殺すも、その使い手次第なんだっ!!
僕は刀に気を目一杯送り込む。
そして―…、
「行けっ!!“桃源の乱!!”」
僕は力一杯に叫んだ。
すると、
ビビッ!!
刀身に込められた僕の闘志が一気に解放される。
そのまま地面から刀を引っこ抜き、僕は勢いをつけ足に絡まる鉄の鎖に斬りつける!
―…斬れるか…っ!
ガキィィ…〜〜…ン。
………………。
―…斬れなかったぁぁぁっ!
僕は心の中で絶叫する。
そして、刀と鉄が激しくぶつかった事により生じた衝撃が僕の腕にひしひしと伝わってくる。
刀は無事のようだけど…。
じぃぃ…〜〜…ん…。