■ピーチボーイ![2巻]
□参拾四「鶴の恩返しは甘い罠!?」
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旅道中 参拾四ノ巻
「鶴の恩返しは甘い罠!?」
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ビュオオオオッ。ビュゥゥゥ。
激しく吹雪く山脈。
風は獣の遠吠えのように辺りの雪を撒き散らし、大気は大雪を舞わせ、二つが合わさるとそれは吹雪になる。
ー 木曾の山々 ー
早朝に宿を立ち山越えに挑んでいた僕達一行は、大吹雪の中を、ゆっくりゆっくりと進んでいた。
山々はもう、どこもかしこも大雪が積もっていて雪深い。
ビュオオオオッ。
肌にぶつかる風が痛い。
「だ、大丈夫ですか…?桃太郎殿。」
佐々海は、僕を気遣い声を掛ける。
「う…ん、なんとか…!
……ひょうおえっ!!」
僕はなんとか頷くも、直後突然の突風に飛ばされそうになった。
ガシッ。
佐々海がすかさず僕の襟首を掴む。
ぶら〜ん。
僕は宙に浮いた状態になるも、ホッと一息ついた。
「もっと足を踏ん張らなきゃー!桃ちゃん!」
千宵はそう苦笑しながら言う。
…あはは〜…。
女の子である千宵が飛ばされないで僕が飛ばされてどうするっ!
我ながらアッパレ!…嫌、情けない…。
佐々海風に言うならば、無念…。
そんなこんなで、険しい山々をゆっくりと歩き続ける事、半日。
日が落ち、そろそろ辺りが真っ暗闇になり始める頃だった。
「困ったねー。思った以上に険しい山だね。
日が沈まないうちに越えられないとはー。」
束の間の休憩中、八彩が深刻そうな表情でそう述べる。
「…どこかに民家などないだろうかー…。」
佐々海は八彩の言葉に対しそう答え、ふむと腕を組み始めた。
「いいわねっ!
牡丹鍋をご馳走してくれる民家希望っ!」
千宵が、ワァァと瞳を輝かせ、そしてヨダレをしたためながらそう言うと、直後、ゴッツンッ!とたちまち佐々海のゲンコツが千宵の脳天に落ちた。
「いったぁぁっ!?」
「…こんな時に、食い物の事しか考えられんのかっ!」
そう叫ぶ佐々海。
千宵は涙目になりながらも、ふーんっとそっぽを向きベッと舌を出した。
いつもだったら、このまま口喧嘩から発展する犬と猿の仁義なき戦いが勃発するんだろうが、流石にこの厳しい環境の中でそこまで争う余裕は無いようで、僕は安堵した。
ー…こんな所で喧嘩が始まっちゃったら、みんな野垂れ死にだよー…。
「うんー。佐々海くんの言う通り、わずかな希望にかけて民家でも探しまわってみようかー…。
この天候の荒れようじゃ、夜中に野宿なんてしたら朝まで生きていられるか分からないからねー。」
そう不吉な事を、サラッと簡単に笑顔で述べる八彩に対し、他一同は苦笑しか出来なかった。
(サラッと言うな!サラッと!)
佐々海と千宵は、そう同じ事を心の中で叫んでいた。
否、突っ込んでいた。
そうと決まれば、完全に夜更けになる前にと、僕達は直ぐに休憩を終え、一路歩き出す。
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それから歩き続け二時間ほどが経過した頃だった。
『…けて…。だれ…、たす…て…。』
激しく吹雪く風との合間に、微かに声が聞こえて来るようなー…。
僕は耳を研ぎ澄ませ、本当に声がしたのかどうかを確認する。
ブオオオオッ。
『…けて…。たす…て…。』
ー…やっぱり声がするっ!
僕は確信し辺りを見渡すが…、僕達一行以外は誰もいない。
「ねぇ!今、声が聞こえなかった!?」
僕が声を張り上げ、皆にそう問い掛けるとー…、
「ああ、“こっち”よー。」
「“こっち”だよー。」
「“こちら”です。」
三人はいともあっさりと一斉に同じ方向を指差した。
ずでーーんっ!
僕はずっこけた。
「…みんなにもしっかり聞こえてたんだー…。
それに、場所まではっきり分かってー…。」
僕はぽつりと寂しげに呟く。
「うん、おとぎ人だし…、ねぇ?」
至って冷静な千宵は、佐々海と八彩と顔を見合わせ言い、二人は、うんうんと頷いている。
そっかー…。
おとぎ人は人間よりも身体能力が優れているんだったねー…。
浦島さんが言ってたね、そう言えば。
「そっ…、そんな事よりさ!誰かが助けを求めてる!助けてあげようよっ!」
ちょっと恥ずかしい想いをした僕は、この話の流れを絶ちきるように、皆の指差した方向へと走り出した。
三人は、フフッと笑うと僕の後を追う。